ブドウを見たら跳ぼう
SmartTimes WAmazing代表取締役社長CEO 加藤史子氏

2018/11/9 6:30
保存
共有
印刷
その他

何か新しい価値のあるものを創造するとき、ことを成し遂げようとするとき、障害となるのは「すっぱいブドウ」の心理なのではないかと思う。

慶応大卒、1998年リクルート入社。ネットの新規事業開発を担当した後「じゃらんリサーチセンター」に異動し、観光による地域活性化事業を展開。2016年WAmazing創業。

慶応大卒、1998年リクルート入社。ネットの新規事業開発を担当した後「じゃらんリサーチセンター」に異動し、観光による地域活性化事業を展開。2016年WAmazing創業。

「すっぱいブドウ」はイソップ童話の物語である。森の中で主人公のキツネが、おいしそうなブドウを見つける。ただ、木の高いところに実っていて、何度もジャンプして取ろうとするのだが届かない。怒りと悔しさでいっぱいになったキツネは「あのブドウはすっぱくてまずいに違いない」と考え、その場を去る。

心理学者のフロイトはこれを自己防衛心理としている。つまり、ブドウが取れずに悔しく悲しい自分の心を守るために、もしブドウが取れたとしてもすっぱくてまずいものであると信じ込むのである。

ビジネスの場でも「すっぱいブドウ」を、よく見かける。実現したい世界やサービスがあり、そこへのアプローチを思いつく。同時に、経験豊富なビジネスパーソンほど、その難しさや途中の困難も予想がついてしまう。結果、足が止まり、素晴らしいアイデアも実行されず、世の中に新しい価値を提供する時は永遠に来ない。

かくして「出来そうなもの」「実現可能性の高いもの」の積み上げで、ビジネスを考えることになる。その際の簡単な判断材料の一つは「過去にやったことがあるか、ないか」というものだ。私も顧客に新しい手法や事業を提案する際、「前例がないから」という理由で断られることがある。

もう一つの判断材料に、「みんながやっているから」というものもある。だから他社の動向が気になる。「隣の同業者がやるなら、当社もやります」と言われることも多々ある。

しかし、こうした判断材料に基づく意思決定は、果たして正しいと言えるのか。あえて厳しい言葉で言うと、特に意思決定が仕事である経営陣、管理職においては、胸を張って「仕事をしている」といえるのだろうか。

イソップ物語のキツネは、少なくとも何度もジャンプした後にあきらめている。一方、ビジネスの現場では今や、一回でもジャンプしてみるキツネすら希少な存在になっている。大多数のキツネは経験値と目測で地面とブドウの距離を一瞬で測り、「届かないだろうな」と思ったら、ジャンプしてみることすらしない。

確かに、ジャンプして手が届かないことは恥ずかしいし悔しい。しかし、その実行を通じて得る知見はあるから、おいしそうなブドウを見つけたら我々は必ず跳ばなければいけない。

失敗したって笑われるぐらいのリスクしかない。ジャンプの繰り返しが、いつか本当にブドウをつかむ。そのブドウは、素晴らしくおいしいかもしれない。あるいは酸っぱくてまずいかもしれないが、つかんで食べてみなければ、本物の味を知ることはない。

[日経産業新聞2018年11月7日付]

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]