老舗VCのカルチャー
新風シリコンバレー SOZOベンチャーズ創業者 フィル・ウィックハム氏
ベンチャーキャピタル(VC)の神秘性をひもとく鍵として前回はアクセル・パートナーズとベンチマークキャピタルを紹介した。VCの投資は勘や目利きで決まるのではなく、きちんとした企業文化と理論が背景にあることが理解していただけたと思う。今回はシリコンバレーのトップブランドで、最も歴史があるベンロックを紹介したい。

ベンロックの原形は、ロックフェラー家が初期の航空宇宙産業の投資を始めた1930年代の後半にできた。69年には正式にファンドの形になり、アップルやインテルの初期の投資家としても知られる。近年はブライアン・ロバーツ氏とブライアン・アッシャー氏というパートナーを中心に高い実績を上げ、業界でも尊敬を集めている。2人とも私と同じカウフマンフェローであることから親しくしている。
特にロバーツ氏は私の個人的な意見だけでなく、シリコンバレーで最も尊敬される投資家の一人だ。この10年でフォーブスの「Midas List(最も影響力のあるベンチャー投資ランキング)」などの個人ランキングではライフサイエンスの分野で常時1位を争っている。遺伝子解析のイルミナ、製薬のアイアンウッド、ヘルスケア価格情報提供のキャストラウイト・ヘルス、糖尿病管理・治療のバータ・ヘルスなどの革新的な企業への投資で実績を作ってきた。
ロバーツ氏に「ベンロックの特徴は?」と聞くと「人がすべて」と答える。ベンロックのチームの特徴は全員が好奇心旺盛で、不安定を楽しみ、問題解決の能力に富んでいる点だ。「ベンチャーに特定のモデルを押し付けない」と語り、革新を起こす最高クラスのリーダーを見つけることを重視するという。ベンチャーは「経営者のエゴと良くない採用で沈む」とも語る。
パフォーマンスやマーケットも重要だが、投資では「リーダーとしての経営者」が重要で、優秀な経営者がビジネスモデルをその時々で変化させていくと考えている。今はヘルスケアが人とアイデアとIT(情報技術)が交わる点で有望だという。
ベンロックは「多様性のある意見」を尊重することを重視してチームを作り、ファンドを運営している。考えの幅が広ければ広いほど革新的な新しいアイデアを見られ、意識的に高いレベルでの知的論争を巻き起こすことで投資のリターンが最大になるようにしている。言い方を変えると、誰もが合意するようなことは明らか過ぎて投資に適さないと考えているということだ。一人の強い信念がある場合には、他の皆が反対しても投資することがある。結果として「意思決定をする際には投票もコンセンサスを取ろうとすることもなく、一度、意思決定をすればたとえ反対していたとしても、その後は全員で応援する」というカルチャーを創り上げている。
もしVCに会うようなことがある場合、そのファンドの歴史や戦略、その強みを聞くといい。重要な部分を理解することで双方により良い関係が築ける。
[日経産業新聞2018年11月6日付]