2018年11月14日(水)

春秋

春秋
2018/10/21付
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「多衆」。聞き慣れない言葉が刑法にある。106条にいわく「多衆で集合して暴行又は脅迫をした者は、騒乱の罪とし……」。いわゆる騒乱罪だ。どのくらい集まれば「多衆」なのか基準はないが、50年前のきょう起きた新宿騒乱事件では約2万人が騒いだとされる。

▼1968年は学生運動が燃えさかっていた年だ。国際反戦デーのこの日、過激派の各セクトは国鉄新宿駅を占拠し、車両に火を放つなどして構内は無法地帯に。混乱を大きくしたのがおびただしい数のやじ馬だった。放火をはやしたり、投石に加勢したりする群衆が東口広場を埋めた。学生たちよりずっと多かったという。

▼騒乱罪は首謀者が特定できなくても成立し、「付和随行者」まで一網打尽にできる際どい法律だ。こういう劇薬の使用に踏み切ったのだから、治安当局はたいへんな危機感を抱いていたに違いない。なぜ活動家以外の人々まで、それほどの狼藉(ろうぜき)に及んだのか。何にそんなにいらだっていたのか。戦後史のひとつの謎である。

▼以後半世紀、騒乱罪は適用例がない。新宿駅かいわいは相変わらずの雑踏だが、往年のざわつきはとっくにうせた。いまどき街頭での騒ぎといったらハロウィーンの渋谷くらいだろう。しかし――。ネットの世界ではしばしば大騒動が起きる。炎上する。怒りを募らせ、社会を揺らす「多衆」は見えないだけかもしれない。

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