/

春秋

「多衆」。聞き慣れない言葉が刑法にある。106条にいわく「多衆で集合して暴行又は脅迫をした者は、騒乱の罪とし……」。いわゆる騒乱罪だ。どのくらい集まれば「多衆」なのか基準はないが、50年前のきょう起きた新宿騒乱事件では約2万人が騒いだとされる。

▼1968年は学生運動が燃えさかっていた年だ。国際反戦デーのこの日、過激派の各セクトは国鉄新宿駅を占拠し、車両に火を放つなどして構内は無法地帯に。混乱を大きくしたのがおびただしい数のやじ馬だった。放火をはやしたり、投石に加勢したりする群衆が東口広場を埋めた。学生たちよりずっと多かったという。

▼騒乱罪は首謀者が特定できなくても成立し、「付和随行者」まで一網打尽にできる際どい法律だ。こういう劇薬の使用に踏み切ったのだから、治安当局はたいへんな危機感を抱いていたに違いない。なぜ活動家以外の人々まで、それほどの狼藉(ろうぜき)に及んだのか。何にそんなにいらだっていたのか。戦後史のひとつの謎である。

▼以後半世紀、騒乱罪は適用例がない。新宿駅かいわいは相変わらずの雑踏だが、往年のざわつきはとっくにうせた。いまどき街頭での騒ぎといったらハロウィーンの渋谷くらいだろう。しかし――。ネットの世界ではしばしば大騒動が起きる。炎上する。怒りを募らせ、社会を揺らす「多衆」は見えないだけかもしれない。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連キーワード

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン