職業資格 変わる活用法
SmartTimes 東京農工大学教授 伊藤伸氏

2018/10/22 6:30
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日本には職業と結び付いた資格が多数存在する。2010年の労働政策研究・研修機構の調査分析では1153の資格が対象になった。資格の分野、機能、認定機関は非常に多様であり、その総数は3000以上になるともいわれる。

新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー株式会社設立とともに社長に就任(現任)。2013年から東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授。大学技術移転協議会理事。

新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー株式会社設立とともに社長に就任(現任)。2013年から東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授。大学技術移転協議会理事。

しかも、半数以上の個人が何らかの職業資格を保有する結果が複数の調査から得られている。医師や弁護士といった資格保有者のみが業務に従事できる国家独占資格は職業資格の代表格だが、大半は業務独占のない民間資格が占める。この場合、能力認定や技能検定のような表現がより適切であろう。

職業資格の多様性は、サービス化や高度化の反映とも考えられる。一般に製品の製造販売と比較してサービスの提供では、品質を見極めにくい。業務の専門性が高まると、医師と患者の関係のように専門職とそのサービスを受ける相手との知識や情報の格差が大きくなる。この点で客観的に個人の能力を評価できる職業資格は有益である。

個人は職業資格が就職やキャリア形成に役立つことを期待し、企業をはじめとする組織は採用や配属、人事評価に利用する。顧客は専門的な知識がなくても提供されるサービスが一定の質を満たすと判断できる。

職業資格は、個別企業の組織特性に依存しないため、人材の流動性向上につながる可能性もある。

もちろん新規に職業資格を立ち上げようとすると課題は多い。資格は同じ専門性を持った保有者と保有者以外を区別する。新しい職業はしばしば範囲が曖昧で、機能が多義的である。そこに明確な線引きをするとあつれきを生みかねない。能力について客観的評価を確立する作業も負担が重く、制度創設には資格を求める個人、組織、顧客の三方の視点が欠かせない。

私が参加している文部科学省の委員会や大学間の連携組織でも、大学や公的研究機関の研究支援専門職について能力認定制度の検討が進んでいる。いずれも検討結果が公開され、広く議論を深めようとしている。URA(リサーチ・アドミニストレーター)に代表される大学等の研究支援専門職は国内では比較的新しく、社会的な認知はこれからである。類似する能力認定は米国や欧州、オーストラリアで運用されており、国際化対応の側面もある。

ただ、日本では独占的資格を除くと、職業資格による採用や待遇の恩恵は限定的なのが実情だ。労働政策研究・研修機構の調査でも職業資格の保有が単純には高収入や正社員への就業に結び付いていない結果が示されている。

職業資格は人材育成と表裏一体の関係にある。新しい専門職の発生に伴う職業資格は、採用や人事評価よりも人材育成による業務の高度化や人材の適切配置による組織業績の向上に重点を置いた活用が望ましいであろう。

[日経産業新聞2018年10月19日付]

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