春秋

2018/10/15 1:12
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小説誌「オール読物」10月号に載った奥泉光さんの「地下迷宮の幻影」を読んで大いに笑った。愛読者にはおなじみ。定員割れの弱小私立大学で、日本文学を講じる無気力な准教授を主人公とするシリーズ最新作だ。テレビドラマにもなったから、ご存じの方もいよう。

▼作風は異なるが、筒井康隆さんのベストセラー「文学部唯野教授」と同様、高等教育の病を笑いのめす。崖っぷち大学は、話題づくりのため、教育勅語を信奉する著名なタレント文化人を教授に招く。しかも将来の学長含みで。学内政治をめぐるドタバタが楽しい。読ませるのは勅語に対する今どきの学生の感性の描写だ。

▼勅語は、親孝行、夫婦の和など12の徳目を説く。が、学生は「ここにあるやつって、常識っしょ」「ひとつ足りねんじゃね」。最近の若者は、バイト先の飲食店などで外国人労働者と日常的に接する。閉じた共同体の外から来た他者とどう付き合うのか。それこそが明治の教典が語らぬ現代日本の道徳的課題だというのだ。

▼文部科学相の勅語への言及を巡り、賛否がにぎやかだ。でも、「時代錯誤」「現代でも通用する」の二項対立に終始する。日本の在留外国人数は263万人。人口の約2%だ。政府は来年度、新たな在留資格を設け、外国人労働者の受け入れをさらに加速する。人として彼らとどう向き合うのか。「娯楽小説」に諭された。

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