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春秋

広島大学は昨年度の入試で、目取真俊さんの小説「ブラジルおじいの酒」を出題した。戦前、南米に移住し、敗戦後の沖縄に帰郷した老人と、小学4年の「ぼく」との交流を描く。少年は老人の畑の果物を盗むなど悪さを重ねていたが、ある出来事を機に心を通わせる。

▼単身、新天地を求めた若き日のおじいは、父親と約束を交わす。集落の洞窟に泡盛のカメを隠した。何年か後、一旗揚げて帰還したら親子で古酒を酌み交わそう。おじいは、大切に守ってきた焼け焦げたカメの由来を明かした。が、父は戦禍に倒れ約束は果たされなかった。「ぼく」は孤独のうちに亡くなった老人を悼む。

▼沖縄県知事選で、普天間基地の名護市辺野古への移設に反対する候補が当選した。今年2月の名護市長選では逆に反対派が敗れた。時々の民意を都合よく解釈する本土の人に対し、社会学者の岸政彦さんは「すべての(県民の)判断は、生活のしがらみや、どうにもならない状況や、過酷な条件のもとでなされる」と説く。

▼沖縄を巡る多くの言説が「正しい立場の内地人が、間違った沖縄人を叱る」という構造に陥っていないか、との内省だ。広島大は入試で受験生に何を問いたかったのか。沖縄と同様、重い歴史を背負った被爆地で学ぶことの意味にもかかわる。重要なのは、「聞く」という営みかもしれない。それは難しいことだけれども。

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