春秋

2018/10/1 1:04
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往年の人気作家、獅子文六はグルメ随筆の元祖でもあった。それもなかなかの贅沢(ぜいたく)志向で、半世紀前のエッセー集「食味歳時記」には月ごとの美味が満載だ。10月の一押しは、やはりマツタケ。赤坂の邸宅には、シダの葉を敷きつめた籠が京都から続々と届いたらしい。

▼笠の閉まった、かたちのいいやつを選(え)り出してまるごと焼く。火傷(やけど)もいとわず、熱々を自分で裂いて――と描写は念入りだ。立ちのぼる香り。柚子(ゆず)をしたたらせて「ウマい!」と文六先生はご満悦である。その当時でも相当に値が張ったろうが、いまどきこれを試すのはとても勇気がいる。100グラム3万円くらいは珍しくない。

▼マツタケは朝鮮半島でも秋の味だ。この季節に韓国・ソウルを訪れると観光客がひしめく市場でもひときわ目を引き、焼いて食べさせてくれる店もある。豪快に裂いて火にあぶり、カルビやロースと一緒に口に放り込む……。などと書いていて思い出したのだが、北朝鮮をめぐるニュースにも先日、マツタケの話があった。

▼平壌を訪れた文在寅大統領は金正恩委員長と「革命の聖地」白頭山に登ったり、マスゲームを見物したり。トランプ米大統領と、北へ北への前のめり競争をしているみたいだ。それで正恩氏からは、2トンものマツタケの贈り物がソウルに届いたそうだ。最高級品らしいが、非核化もあやふやなうちにこの展開。「マズい!」

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