「ギグ・エコノミー」曲がり角? 生活不規則な人増える
先読みウェブワールド (瀧口範子氏)

2018/10/4 6:30
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NIKKEI MJ

最近、ウーバーテクノロジーズやリフトなどのライドシェアを利用していて気になることがある。それは、かなりの長時間、仕事をしているドライバーが結構いることだ。

最近は競争激化を受けて、複数のライドシェアに参加するドライバーも増えている=AP

最近は競争激化を受けて、複数のライドシェアに参加するドライバーも増えている=AP

ライドシェアは、インターネット経由で単発の仕事を依頼したり、受注したりする請負経済(ギグ・エコノミー)の代表例。好きな時に好きな時間だけ働いてちょっとした収入を得るというのが当初の触れ込みだった。「ギグ」というのは「一時的な仕事」という意味で、米国ではよくミュージシャンがバーやクラブなどでステージ演奏をやる、という時に使うことが多い表現だ。

それと同じように、フリーランスで1回ごとの仕事をして収入を得る。ライドシェアも、もともとはちょっと空いた時間を利用してとか、リタイアした人が暇つぶしにやるとか、次の仕事が見つかるまでの腰掛けといった印象だった。

ただ、ドライバーの話を聞いていると、今やフルタイムの職業になっており、しかも夜勤が多いことに驚く。夜勤になるのは、夜になると上がる料金を目当てにしてのことだ。

先だって、このギグ・エコノミーに関して興味深い統計が発表された。JPモルガン・チェース・インスティテュートによるもので、ライドシェアのドライバーやデリバリーを担う人々の2017年の平均月収は、13年の1469ドルから783ドルと53%も減っているという。

ある意味ではショックな数字で、ドライバーから感じるストレスに合点がいく感じだ。

皮肉なのは、同じギグ・エコノミーでも収入がぐんと上がっている分野もあることだ。それは、部屋や家を貸したり、遊んでいる自家用車を貸し出したりするサービスである。

民泊は日本でも知られているが、アメリカではそれ以外にも自分の車をレンタカーのように貸し出したり、自宅の駐車スペースを貸し出したりするといったギグ・エコノミーのサービスもある。

こうしたアプリを利用して自分の資産を貸し出す人は、上記の同期間に月収が69%も上昇して1736ドルになったのだという。

持てる者がさらに豊かになるという法則が、新しいギグ・エコノミーにも投影されているのだ。

たきぐち・のりこ 上智大外国語(ドイツ語)卒。雑誌社、米スタンフォード大客員研究員を経てフリージャーナリストに。米シリコンバレー在住。大阪府出身。

たきぐち・のりこ 上智大外国語(ドイツ語)卒。雑誌社、米スタンフォード大客員研究員を経てフリージャーナリストに。米シリコンバレー在住。大阪府出身。

ギグ・エコノミーについては、もうひとつ悲観的な調査結果を知った。こちらは英国のオックスフォード・インターネット・インスティテュートによるものだ。

アプリを介して仕事を得るギグ・エコノミーには、自宅でできる仕事もある。簡単な入力をしたり、プログラミングや翻訳をしたりといった作業だ。調査結果によると、こうしたギグ・エコノミーで仕事をしている人は、生活が健康的でなくなるのだという。

調査では、主に先進国から賃金の安い発展途上国へ仕事が依頼されるケースを取り上げ、東南アジアやサハラ砂漠以南のアフリカの請負人を対象にした。こうした仕事では、従業時間が不規則で長くなり、締め切りが短くてせかされてやる仕事も多い。そのため、睡眠不足や疲労困憊(こんぱい)状態になる人々が少なくないという。

「持てる国」と「持たざる国」の関係が、ギグ・エコノミーでも変わらず続いているのかとがっかりする。

ネットで古い仕組みが刷新されることもあるが、その一部は広まるにつれてよく知った社会に似てくるのではないかと思う。ギグ・エコノミーを「働き方革命」だと簡単に歓迎する前に、よく考えなければならない課題もあるのだと思う。

[日経MJ2018年10月1日付]

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