春秋 - 日本経済新聞
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春秋

今年は秋が駆け足でやってきたかのようである。朝夕の急な冷え込みに、あわてて長袖の衣類や厚手の寝具を引っ張り出した方も多いのではなかろうか。忙しさにまぎれているうちにも、空は澄んで高くなり、日の暮れは少しずつ早まって、着実に季節はめぐっていく。

▼先日、京都で「東山魁夷展」に足を運んだ。30年ぶりの大回顧と銘打ち、「道」「緑響く」など代表作の数々が並んでいる。秋の情景も好んで描いた魁夷だが、中でも傑作の一つが「秋翳(しゅうえい)」であろうか。群馬県の法師温泉から望んだ三角の山容が、燃えるような紅や黄の葉に彩られている。灰色の曇り空との対照が鮮烈だ。

▼誰もがこの姿をたしかに見たことがある、と感じるのは、魁夷が各地で取材した要素が少しずつ取り入れられているからだ。そんな解説がされていた。日本の山の象徴的な造形なのかもしれない。そういえば2年前、九州国立博物館での魁夷展では、会場で絵を前に泣いている来館者がいた、との逸話を聞いたことがある。

▼ザ・原風景のごとき一枚に、古い記憶が湧きだしたのだろうか。魁夷は著書で自らの画業を「無言の風景との対話の中に、静かに自己の存在をたしかめながら、こつこつと歩いてゆく」と述べた。四季との交歓が万人を揺さぶる芸術をはぐくんだと読める。高みには近づくべくもないが、歩こう。彼岸花の一群れを探しに。

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