2018年9月22日(土)

春秋

春秋
2018/9/9付
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 根津の清水の下から駒下駄(こまげた)の音高くカランコロンカランコロンと……。ごぞんじ「怪談牡丹灯籠」の名調子である。猛暑はさすがにやわらいだとはいえ、なお暑苦しい夜もある。怪談噺(ばなし)でゾッとするのは涼をとる手立てとしては粋だろう。熱中症対策にはならなくても。

▼三遊亭円朝が「牡丹灯籠」を世に出したのは江戸時代の終わりごろである。明治のはじめに速記から活字化されたのが今に伝わっているのだが、21世紀の日本人にもわかりやすい語り口には感嘆する。実際、日本語による近代的な小説のさきがけとされる「浮雲」を書いた際、二葉亭四迷は円朝の落語を参考にしたそうだ。

▼「牡丹灯籠」をはじめ円朝が生み出した新作落語は数多いが、その旺盛な創作力の背景を探ると、なかなか切ない事情もうかがえる。師匠の二代目・円生が、若くして真打ちになった円朝の人気をねたんで、しばしば弟子の演目を先取りしたのである。そこで、師匠が先取りしようのないオリジナルの噺を披露していった。

▼結果として円生は円朝の才能が花開くのを助けたようにもみえる。だがそれは、のちに「不世出の名人」とたたえられた円朝だからこそだろう。陰湿ないじめや不条理なパワハラは、いまもあとを絶たない。声を上げるほどの勇気のない人には、耐え忍んで暑苦しい思いを倍加させるよりは怪談噺で涼を、とお薦めしたい。

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