2018年11月14日(水)

カメラを止めるな!に学ぶクチコミの謎 ネガティブ情報、逆に話題
奔流eビジネス (アジャイルメディア・ネットワーク取締役 徳力基彦氏)

コラム(ビジネス)
ネット・IT
2018/9/7付
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NIKKEI MJ

映画「カメラを止めるな!」の勢いが止まらない。制作費300万円とも言われ、6月の公開当初は東京都内の劇場たった2館でスタートした低予算映画が、記事執筆時点で累計上映館数240館を突破。公開初週が話題のピークで、上映館数は減るのが普通であることを考えると、実に珍しい現象と言える。

インタビューに答える「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督

インタビューに答える「カメラを止めるな!」の上田慎一郎監督

低予算の映画がここまでの大ヒットになった背景には、映画の観客によるSNS(交流サイト)やリアルでの「クチコミ」がある。「カメラを止めるな!」のクチコミからは、想像を超えて広がるクチコミの意外な構造が見えてくる。

そもそも「カメラを止めるな!」では、「感染力」や「ポンデミック」というキーワードで表現されるほど、公開当初から熱いクチコミの広がりがあった。

特に公開館数が少なかった初期に見た人たちの熱量はすさまじいものがあり、まさに「感染」。その背景に映画の面白さはもちろん、上映後のキャストのサプライズ挨拶など様々な努力があるのは間違いない。

加えて注目すべきは「ネタバレ厳禁効果」だ。

「カメラを止めるな!」は映画の構造そのものが画期的であり、それこそが観客に感動や興奮をもたらしている。そのため、観客はまだ映画を見てない人に、自然とネタバレを控えることになる。ネタバレしてしまうと、感動できないことが容易に想像できるためだ。

さらに、もう一つ注目すべき現象が「ネガティブな話題の効果」だ。

8月21日発売の週刊誌「FLASH」で、盗作疑惑が報道された。盗作疑惑については制作側は完全に否定しており法廷で争われるとみられるが、当時この報道が映画の勢いをそぐと予測するメディアが複数あった。

しかし、疑惑報道後の興行成績は、前の週の8位から6位にランクアップ。勢いがそがれるどころか、さらに勢いを増す結果になったのだ。

とくりき・もとひこ 名大法卒。NTTを経て06年アジャイルメディア・ネットワーク設立に参画、09年社長。14年3月から取締役最高マーケティング責任者(CMO)。

とくりき・もとひこ 名大法卒。NTTを経て06年アジャイルメディア・ネットワーク設立に参画、09年社長。14年3月から取締役最高マーケティング責任者(CMO)。

盗作疑惑自体は、明らかに映画にとってネガティブな話題だが、結果的にはメディア露出が増えたり、SNS上での議論が盛り上がったりして、映画に対する認知や興味を増す結果につながった。筆者の長男も盗作疑惑報道を見て、映画への興味が増して私と劇場に足を運ぶ結果になった。

実は、ネガティブな報道で消費者の興味が増す事例はメーカーの商品でも少なくない。例えば、サントリーが発売したレモンジーナという飲料が早々に品切れになった際も、そのきっかけになったのは「土の味がする」というネガティブなクチコミだったのだ。

企業担当者の視点で考えると、ついつい、自社の製品のポジティブな特徴を、そのまま顧客が友人に伝えるのを、ベストなクチコミの広がりと考えがちだ。

ただ、残念ながら企業のテレビCMでの売り文句を、そっくりそのまま顧客や観客が友達に伝えることというのはめったにおこらない。

実は、クチコミしたいけどできない状況や、ネガティブな話題も混じって議論が起きている状態の方が、クチコミの感染力や話題度は強くなることが少なくないのだ。

[日経MJ2018年9月7日付]

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