2018年9月22日(土)

大学の連携・統合は利用者の視点で

社説
2018/9/3付
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 今年生まれた赤ちゃんが大学を卒業する2040年。日本の高等教育は、どう変わるべきなのだろう。人口動態や技術革新を見据え、社会の変化に学ぶ者が適応できる制度を準備する必要がある。

 40年の大学進学者数は、少子化により51万人と、現在から12万人ほど減少すると推計される。

 18歳人口に限れば、大学は8割の市場規模に縮小する。入学定員1000人の大学が、120校ほど不要になる計算だ。

囲い込みから流動化へ

 国の審議会などは、(1)国公私立の枠を超え複数大学が一般社団法人を構成する(2)複数の国立大学を傘下に置く新法人の設置(3)私立大学間の学部の譲渡――の類型を示し、規模の適正化を促している。

 この方向性に異論はない。だが、改革を、官主導の需給調整にとどめてはいけない。

 問われているのは、大学が価値ある教育サービスを提供し、学位に見合った人材を社会に供給していることを公に証明できるかだ。

 ひとつの大学、あるいは統合した大学法人が4年間、ひとりの学生を囲い込み、授業料と交換に学位を与える。旧来の経営モデルを続けるのか。これが真の論点だ。

 日本経済団体連合会が6月にまとめた大学改革への提言は、人工知能などの先端技術を社会で普及させる際の課題の解決には、倫理哲学などリベラル・アーツの素養が必須だと指摘。文系、理系の縦割りの学部が用意する学位の在り方を刷新するよう求めた。

 18歳の若者、留学生、学び直しが必要な社会人。多様な教育の受け手は、どんな知識や能力を獲得すべきか。その出口に向け、どの科目を選択するのか。学びをデザインするのは大学だけではなく、学習者を含む社会である。経済界は学位の再定義を求めている。

 学位取得に向けた単位は複数の大学から自由に選べる――。そんな理念で改革を進めるのが欧州連合(EU)だ。域内の大学間での単位互換、学生・教員の流動化を加速する。自前主義による囲い込みではなく、知の開放と成績評価の共通化が教育・研究の質を高め、付加価値を創造する人材を育てる最適な手段であるとの哲学だ。

 注目したい動きがある。

 政府は7月、EUとの間で、学生が所属大学と欧州の留学先の双方から学位を取得できる「共同プログラム」制度を新設することで合意した。品質保証が厳格な欧州の学位に挑むことで、国際的に活躍できる人材養成を目指す。

 宇宙や医療などの幅広い分野で、日本とEUの大学が学位プログラムを共同開発する。文部科学省が大学にカリキュラムの開発経費を支援。学生には留学中の生活費に充てる返済不要の奨学金を用意する。対象大学を公募し、来秋から実施する予定だ。

 こうした事業を米国やアジアの大学との間にも広げ、学びの品質保証や、学生・教員の流動化を促す改革の一歩としてほしい。東京大学が一時期検討した「秋入学」など、知の国際化に向けた議論も再び必要になろう。

 それには法規の見直しが必要だ。日本の大学設置基準は、学生の囲い込みを前提とした自前主義を原則とする。他大学と単位を交換する場合でも、類似科目を「自ら開設」するよう義務付ける。

 また、専任の教員は、ひとつの大学に所属するルールに縛られている。経団連は、国内外の複数の大学が、優秀な教員を共有する柔軟な人事制度を提言する。

教育資源の共有化を

 日本の大学の国際的評価が低調なのは、密度の低い教育を量的に拡大してきたからだ。780もの大学が限られた予算を奪い合い、国全体としての投資効率を低下させてきた。人材や教育設備など限られた知の資源を、いかに共有化し、開放するのかが課題だ。

 放送大学という遠隔教育のインフラと連携するのも一案だ。

 同大は一般・専門科目あわせて300以上の科目を開設。科目履修はもちろん学位も取得できる。学習者の目的に応じ、在学期間を選択できるなど柔軟性も高い。テレビ、ラジオ放送だけでなくインターネットでの受講も可能だ。

 例えば、東京電機大学が社会人向けに始めたサイバーセキュリティーの専門家を養成する講座など各大学が社会の需要の高いプログラムを放送大学と共同で実施。演習やグループ討論を各地の学習センターで行うことも可能だろう。

 大学はそれぞれの得意分野に経営資源を集中。単位互換などを通じ、その強みを国内外の学習者に提供し、社会の評価を仰ぐ。大学の連携・統合の目指すべき姿だ。

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