2018年11月15日(木)

廃炉議論、住民対話 前面に 丁寧なプロセス 持続カギ
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コラム(ビジネス)
2018/9/3 6:30
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東京電力福島第1原子力発電所の廃炉について地元住民らを交えて話し合う国際会議が8月5、6日に福島県内で開かれた。半年以上かけて地元での対話を積み重ね、人々が抱く疑問を浮かび上がらせる丁寧なプロセスを経て実施した。こうした方式をいかに広げ持続させるかが課題だ。

参加者同士で話し合いながら議論を深めた(8月5日、福島県楢葉町)

参加者同士で話し合いながら議論を深めた(8月5日、福島県楢葉町)

会議は原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)が主催する「福島第一廃炉国際フォーラム」で、今年で3回目。両日とも600人以上が参加した。

「結局どうするんですか」。東電や経産省、NDFの幹部と地元の人たちが登壇したセッション。板金業を営む岩本千夏さんが、原発でたまり続ける汚染水の処理法をめぐり、経産省の松永明審議官の煮え切らない説明に問い返した。

地下水が原子炉内に入るなどして発生する汚染水は浄化装置を通すが、放射性トリチウムが残るため、タンクに入れて保管している。しかし、タンクは増える一方で限界に近い。海に放出すべきか議論が割れている。

山名元NDF理事長は「明確な答えは出せない」と認めたうえで、「地元の考えが基本だが住民全員とやりとりしていては100年たっても結論が出ない」と苦しい胸のうちをのぞかせた。廃炉をめぐるこうした率直なやりとりは珍しい。

原発関連の説明会は国や電力会社の担当者がほぼ一方的に話し、反対派が遮るといったイメージが強い。原子力発電環境整備機構(NUMO)の高レベル放射性廃棄物処理の地層処分に関する説明会では学生を動員し、東電グループ会社の管理職にも参加を呼びかけて問題になった。

福島第一廃炉国際フォーラムは形だけの会議や不透明な開催プロセスとは一線を画そうとする。もちろん、最初から順調だったわけではない。

2016年の初回フォーラムは従来型の説明会に近かった。会場からの質問はほとんど受けず、メディアの取材も短く、海外の招待講演者から「もっと参加者と交流した方がよい」「これでは何のために福島で開くのかわからない」など疑問の声が出たほどだ。

その反省にたち、2回目からは住民向けセッションに丸1日を割く。企画・司会進行役を福島の経済や廃炉、風評問題に詳しい開沼博・立命館大学准教授に託した。

同准教授が力を入れたのが事前準備だ。住民は何をどこまで理解しているのか。何を知りたいのか。関心がないとしたらなぜか。何度も地元で話し合いのイベントを開き、結果をもとにフォーラムで取り上げる内容や議論の進め方を決めた。

昨年開いた2回目では人々の不満や不安、要望が、かなり浮き彫りになった。少人数に分かれての議論や、意見をシールに書いて貼る独特の方法が一定の効果をあげた。

3回目の今年も前回をほぼ踏襲しつつ住民参加のセッションでは汚染水処理や、20~30年後の雇用はどうなるかなど個別の問題にも触れた。開沼准教授は「問いを立てるにも知識が必要なので、どうしても入り口から入らざるを得ない。今後はもっと個別の議論を深めていくべきだ」と話す。

次回以降のセッションの組み立ては未定というが、このフォーラムを「特別な実験の場」にとどめてはいけない。むしろ、廃炉をめぐる議論の「標準型」に発展させていく必要がある。

経産省は8月30、31日に福島県内と都内でトリチウム水の処理に関する公聴会を開催。これをもとに海洋に放出するかの結論を急ぎたい考えだ。だが、これでは従来の決定法とそう変わらない。フォーラムで高校生が語った「公聴会だけで済ませるのではなく、一人ひとりが自分も決定プロセスに加わったと感じられることが大切」という言葉をかみしめたい。

(編集委員 安藤淳)

[日経産業新聞2018年8月31日付]

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