2018年9月23日(日)

がん見落とし問題を改革に生かせ

社説
2018/8/28付
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 病院の画像診断でがんの見落としが相次いでいる。検査結果が治療に生かされないのは問題だ。国と医療界が協力して診断の専門医を増やすとともに、診療科を超えた連携を密にし、患者本位の医療へ向けた改革を進めてほしい。

 見落としはコンピューター断層撮影装置(CT)の診断でがんの疑いありとされながら、主治医が診断報告の詳細を見ずに治療が遅れたケースがほとんどだ。

縦割り組織が連携阻む

 多くは循環器、脳神経、消化器など多数の診療科を抱える大病院で起きた。横浜市立大病院では心臓を調べるためにCT検査を実施し、腎臓がんが写っていたのに医師が気付かなかった。

 通常、主治医も画像データを見るが、詳細は診断の専門医から後日報告を受ける。循環器内科医なら、まず心臓の血管異常などに注目する。専門外のがんなどには関心が向かず、緊急性が低ければ報告を丁寧に読まないこともあるようだ。

 臓器や病気の種類によらず、患者の心身の状態を幅広く診る総合診療や、分野を超えたチーム医療の大切さがいわれて久しい。だが、縦割り組織などが壁となり連携が足りない。

 CT画像などを読み取る放射線診断専門医の不足を解消するのも課題だ。日本は世界のなかでも、CTなどの検査機器の設置台数が群を抜いて多い。

 放射線診断専門医は5500人以上いるが、検査数の増加に追いつかない。「2倍の人数が必要」(日本放射線科専門医会・医会の井田正博理事長)という。

 最新のCTは首から骨盤まで15~20秒で撮影でき、2000~3000枚の断面画像が容易に得られる。診断専門医一人が1日に数十人分の画像を読む。

 作業の負担は大きく、主治医にその都度、気になったことを直接伝える余裕はない。量をこなすことに追われ、ダブルチェックの徹底も難しいのが実情だ。

 日本医学放射線学会などは人材育成を急ぐ必要がある。その際、気になるのは診断専門医が患者の治療にあたる医師に比べ、一段低く見られがちなことだ。専門職として重視される米国などと大きく異なる。医療界全体で待遇の改善を検討すべきだろう。

 検査件数が多すぎないか、点検も必要だ。保険でカバーされるからと安易に実施しがちだが、本当に治療に必要なものに絞れば診断の質の向上につながる。

 見落としを防ぐための、技術面の工夫も進めたい。静岡県立静岡がんセンターでは、画像診断結果の報告を主治医が電子カルテ上で確認し、画面上のボタンを押さないと警告が出続けるようにした。診断専門医も確認の有無を把握できる。

 ただし、形式的な確認だけでは意味がない。医師は専門分野によらず可能な限り患者の全身状態を把握し、他科と協力して最適な治療をする姿勢が求められる。

 大学病院などと、患者が日ごろから頼りにしているかかりつけ医との協力も効果的だ。

 CT検査で、本来調べようとしていた場所以外にがんが見つかったが、小さくて進行も遅いので主治医は経過観察でよいと判断したとしよう。特段の症状がないと、それを忘れてしまうことがある。

頼れる家庭医の養成を

 こんなとき、かかりつけ医も画像診断の報告を共有していれば便利だ。患者が風邪で訪れた際などに「そろそろ再検査を」と促せれば「手遅れ」を防ぐのに役立つ。

 画像データを患者に渡してはどうかという指摘もある。これに対しては「医師への報告をそのまま患者が読めば誤解も生じる」と慎重論が多いが、かかりつけ医が説明役を果たせれば患者の理解向上にもつながるだろう。

 日本ではさまざまな種類の病気をひととおり診られ、かかりつけ医の役目を果たせる家庭医の養成が後回しにされてきた。英国やオランダにならい、養成課程を充実させるべきだ。

 日本医師会はしっかりした資格要件を定めて腕が利く家庭医を増やせるよう、医療界を引っ張ってほしい。

 がんなどの診断はこれから大きく変わる。CT画像をゲノム(全遺伝情報)と組み合わせ、人工知能(AI)も使って精度を高める試みなどが本格化する。

 診断を人手だけに頼るのは限界がある。関係学会が進めるAIなどによる効率化を急ぐべきだ。見落とし問題への取り組みを、将来の新しい医療を切り開く契機としたい。

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