2018年9月18日(火)

春秋

春秋
2018/8/27付
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 予告編を見た観客は生唾を飲み込んだかもしれない。キャッチコピーにいわく「渇望の味と香りを放つ感動の巨編」。小津安二郎監督の遺作となった1962年の「秋刀魚の味」である。ところがこの映画に食べ物はいくつか登場するが、サンマはどこにも出てこない。

▼娘を嫁がせる父親の悲哀を描き、しのびよる老いをどう受け止めるかを静かに問う――。小津調の集大成というべきか。しみじみとして、ときにほろ苦くもあるサンマの味わいを名匠は人生に重ねたのだろう。たしかにあの腸(はらわた)の苦みこそがサンマの味だ。もっとも、そういう味覚を云々(うんぬん)するのはだいたいが昭和世代である。

▼秋の訪れを前にサンマ漁が始まり、店先でも初物を見かけるようになった。近年は漁獲が減り、特に昨年は記録的な不漁だったのに比べて今年は期待が持てるらしい。もう少し出回ってきたら脂の乗った太いやつを焼いて、まるごと楽しもうか……。聞けば昨今は、腸なんか捨てて開きにしてね、という客も多いそうだが。

▼味覚が幼児化しているなどと嘆いても仕方があるまい。サンマに大根おろしという食文化自体はしっかり受け継がれているのだ。だからこの魚が、末永く食べ続けられるように願いたいものである。不漁の原因のひとつには、中国などによる公海での乱獲があるという。サンマのほろ苦さに似合わぬ、苦々しき所作である。

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