2018年11月14日(水)

自由な通商国家の存在感を示そう

2018/8/18 22:55
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戦後の米国は安全保障の費用を負担し、広大な市場を開放することで、同盟国の発展を支えてきた。それが世界の安定に資するとみて、小さな人間たちにロープで縛られるガリバーの役回りを受け入れたと、米保守派の論客ロバート・ケーガン氏は言う。

貿易戦争の拡大止めよ

だがトランプ米大統領は「我々はどの国からもカネを奪われるブタの貯金箱だった」と言い放ち、自国第一の経済・外交政策にかじを切った。国際秩序の中核を担う米国が変質し、「ならず者の超大国」になりつつあるというのがケーガン氏の見立てだ。

とりわけ心配なのは自由貿易体制の揺らぎである。米国は関税貿易一般協定(GATT)から世界貿易機関(WTO)に託された通商ルールをないがしろにし、中国や日本、欧州などに同時多発的な貿易戦争を仕掛けている。

世界は制裁と報復が横行する危険な領域に入った。米国で成立した高関税法が保護主義を拡散し、大恐慌の傷を深めた戦前の二の舞を懸念する声もある。

米国だけの責任ではない。巨額の補助金でハイテク産業を育成し、外資の参入や資本の取引を制限する中国の問題も大きい。大衆迎合主義と国家資本主義が入り乱れ、産業保護の対象や手段が多様化する世界の風潮を、米調査会社ユーラシア・グループは「保護主義2.0」と表現する。

米経済学者が主要紙の報道ぶりをもとに算出する世界の経済政策不確実性指数は、2018年7月に226をつけた。トランプ政権が発足した17年1月に過去最高の307を記録し、18年1月には113まで低下したが、貿易戦争の激化で急上昇している。

世界経済は底堅い回復を続けているが、米国の金利上昇や新興国の資金流出もあって、先行きを楽観できない。企業の経営や個人の生活を脅かす貿易戦争の拡大を食い止める必要がある。

戦後の日本は米国の庇護(ひご)の下で、軽武装の通商国家を志向してきた。取り巻く環境は変わっても、貿易に成長の糧を求めざるを得ないのは同じだ。「自由貿易の旗手として、新しい時代の経済秩序づくりを主導していく」と安倍晋三首相は言う。その決意を行動で示さねばならない。

第1の課題は日米摩擦の緩和である。米国は日本との新たな貿易協議(FFR)を通じ、2国間の自由貿易協定(FTA)の交渉入りを迫る構えだ。日本は環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰を米国に働きかけている。

米国の顔色ばかりうかがって言いなりになるのでは、自由貿易の旗手など務まるはずがない。トランプ政権がちらつかせる自動車の高関税や輸出入の数量規制、為替相場の監視強化などを回避し、TPPの基準やルールに沿った貿易促進策を探ってほしい。

第2の課題は自由貿易圏の拡大だ。米国を除く11カ国の「TPP11」を主導した日本の功績は大きい。その早期発効に尽力し、保護主義の防波堤を固める必要がある。高水準の自由化を条件に、タイやコロンビア、インドネシアなどの参加も促した方がいい。

WTOの立て直しも

日本と欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)もTPP並みの自由化水準を確保し、署名にこぎ着けた。次は東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉妥結を急ぎたい。日本が自由貿易圏を広げれば、不利な競争条件を強いられる米国の企業や農家が増え、トランプ政権に軌道修正を迫る圧力も高まるはずだ。

第3の課題はWTOの改革だ。160余りの国・地域が参加する多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)は目ぼしい成果を出せず、紛争処理の最終審に相当する上級委員会の空席も埋まらない状態にある。これでは自由貿易体制を維持する役割を果たせまい。

日本はEUなどと連携し、機能不全に陥ったWTOを早く立て直すべきだ。中国の知的財産権侵害の是正、国境をまたぐデータ移転のルールづくりを含め、国際的な課題に取り組める体制を再構築しなければならない。

米国が超大国の責任を放棄して貿易戦争を続けるのなら、ほかの国がもの申し、保護主義の封じ込めに汗をかく必要がある。日本が中心となって自由な通商国家の存在感を示すときだ。

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