春秋

2018/8/18 0:57
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「めぐる月のしたで、踊りの輪のまんなかにいるわたしは、魔法の輪のなかにいる人間のような気がした」。ラフカディオ・ハーンは鳥取県の寺で出合った盆踊りの印象を、こうつづっている(田代三千稔訳)。明治23年晩夏の光景だ。「まさしく、これは妖術である」

▼英語教師として松江に赴く道中、たまたま立ち寄った町で見た盆踊りは、のちに小泉八雲として日本文化の不思議に迫っていくハーンをいたく刺激した。時代は変わり、そんな素朴な風情にはなかなか浸れそうもないが、盆踊りの楽しさ、ゆかしさはいまも健在だ。各地で「阿波おどり」を名乗るイベントも開かれている。

▼その総本山である徳島市の阿波おどりが、今年は踊り自体よりも混乱ぶりで全国ニュースになった。主催者だった市観光協会が巨額の累積赤字で破産。新たに市などがつくる実行委が主催者となるも、運営をめぐって有名な「連」の所属する団体が反発し、独自に「総踊り」を強行――という展開だ。なんともややこしい。

▼期間中の人出は計108万人と昨年より15万人も減ったそうだから、騒ぎを敬遠した観光客も多かったのだろう。最近の盆踊りは若者にも人気で、会場をハシゴする「盆踊らー」も登場しているのに惜しいことである。対立を早めに収拾してほしいところだが、かくも人を狂わせるとは、盆踊りはやはり妖術かもしれない。

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