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疑似体験が実行早める

SmartTimes PwCコンサルティングパートナー 野口功一氏

「戦略を説明しても理解してくれない」「思った通りに人が動いてくれない」という声を経営者の方からよく聞く。要するに「実行してくれない」のである。ビジョンや戦略などをわかりやすく構築する手法は確実に発達しているし、映像や音声など視聴覚を使った手法も手軽になっている。それなのに、なぜ実行してくれないのだろうか。

ビジネスの世界から少し離れて考えてみよう。スポーツ、特にトップアスリートの世界では「結果がすべて」だ。極めてシビアに「なりたい姿」や「やるべきこと」を迅速に結果につなげなければならない。

この世界での指導は「なりたい姿」や「やるべきこと」を言葉やビジュアルで一方通行で与えるだけでなく、なりたい姿をグループでディスカッションしたり、疑似的にメンタルトレーニングなどで成功体験をしたりといった手法がとられている。アスリートが自分の「なりたい姿」を事前に疑似的に経験し、よりアクティブな学習を奨励する。頭ではわかっていた「やらなければならないこと」を疑似体験し、実行する意味や「自分のこと」としてつなげ、「なりたい姿」への近道とする。ここでは指導というよりも自ら学習するという概念が強い。

ビジネスでも同じではないか。以前より経営者のメッセージは伝わりやすくなっているが、そこからもう一歩進み、より「自分のこと」につなげる施策が必要だろう。先進的な取り組みをしているところを訪れたり、議論の場を社員にたくさん設けたり、戦略実現後が疑似体験できるイメージを持つようにしたりと、戦略浸透のフォローアップの場を作るのである。

人工知能(AI)や仮想現実(VR)、3Dプリンターなどのテクノロジーも活用できる。会社が5年後に何を達成しているのか、どんな製品やサービスを売っているのか、自分自身の働き方がどう変わっているのか、など様々な疑似体験ができるはずである。

情報があふれている時代だ。情報の選択・分析はビッグデータやAIがどんどん解決し、より確実な道筋を与えてくれるだろう。ただ、その先のゴールにたどり着くまでは別のフォローが必要だ。それはやはり「経験」であり、一番の近道になるはずである。実際の仕事や、見たり聞いたりすることはもちろん、様々な手法で疑似的に経験することが重要である。

従来の企業運営にはビジョンや戦略や組織構造が重視されがちであったが、この予想もできない不確実な時代であるからこそ、「経験」がより必要な要因となる。戦略や商品開発など将来に向けて実施することも、事前に「経験」すれば実現化が早まるのである。「実行してくれない」ことに悩むのであれば、「経験」の場をどんどん作ってあげることにトライしてみてはいかがだろうか。

[日経産業新聞2018年8月17日付]

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