春秋

2018/8/7 1:37
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眼光するどい主役、三船敏郎の殺陣が鮮やかだ。息を止め、10秒で10人を切った演技は今もあせない。映画「用心棒」の一場面である。いわずと知れた黒沢明監督の傑作時代劇は、からっ風吹く宿場町が舞台だ。絹問屋と造り酒屋が地域の名主の座をめぐって渡り合う。

▼それぞれ荒っぽい手段を使うせいで、町はすさみ放題にすさんでいる。抗争が続く中、時に手打ちもするのだが、それはより大きなけんかの元手を作るため。ふらりと訪れた三船ふんする浪人の策で物語は動き始める。米国と中国が繰り広げる追加関税の応酬の報に、海外でもリメークされたこの名作をなぜか思い出した。

▼今月に入り、米側は対中制裁の第3弾の関税率を当初の10%から25%に引き上げる検討を始めたという。これに中国側も液化天然ガスや酒を含め、5200品目で対抗するらしい。7月以降の報復合戦は、大国のメンツやら次代の世界経済の主導権争いもからんで、収まり所が見えてこない。対立が先鋭になる恐れもある。

▼地球規模のモノの動きは昔より複雑で、相手の弱点を狙ったはずなのに自分の体の方が痛んできた、なんてことも起きかねない。映画では三船の活躍で双方が倒れ宿場に平和が戻る。痛快娯楽作のゆえんだが、米中の一件がそんな結末では大混乱だ。トップは心の内に「自制」という名の腕利きの用心棒をおくべきだろう。

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