2018年11月14日(水)

腑に落ちぬ初適用の司法取引

2018/7/21 20:41
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日本版の司法取引制度が初めて適用されたタイの発電所建設をめぐる贈賄事件で、東京地検特捜部が大手発電機メーカー、三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の元役員ら3人を不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)の罪で在宅起訴した。

元役員らは建設資材をタイに荷揚げする際、現地の社員らから相談を受け、港湾当局の公務員に約3900万円の賄賂を支払った疑いが持たれている。

MHPSは内部告発をもとに社内調査を進めて不正を把握し、その結果を特捜部に申告した。不正競争防止法では法人も刑事訴追の対象になるため、同社は元役員らの不正行為の捜査に協力する見返りとして、MHPSは起訴を免れる形で司法取引したという。

証拠が得にくく、摘発例が少ない外国公務員への贈賄行為を立件したという点では、制度は一定の役割を果たしたと言えよう。だがこの取引は腑(ふ)に落ちない。

そもそも日本版司法取引は、企業犯罪や組織犯罪の捜査で、末端の実行犯だけが処罰される「しっぽ切り」に終わらせないために導入された。首謀者や組織の責任を追及することが期待され、法務・検察当局もそう説明してきた。

今回の事件では贈賄に関与した現地の社員は起訴されなかった。起訴の対象は元取締役、元執行役員、元部長で、「しっぽ」ではないかもしれない。だが取引の結果は、会社が訴追を免れ、個人だけが刑事責任を負う形になった。

贈賄行為が起きること自体、ガバナンス(企業統治)や企業風土が正面から問われる事態だ。企業側も責任逃れとみられては不本意であろう。ぜひとも東京地検、そしてMHPSから、取引についての考え方を聞いてみたい。

海外では今回のような事件もまた、司法取引の典型例だという。それでも日本では6月に導入されたばかりの新しい制度である。一つ一つ慎重に適用を重ね、その意義が国民によく分かる、納得感のあるものに育てていってほしい。

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