企業の注目高まるSDGs 「脱・短期志向」のきっかけに
Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚氏

2018/7/23 6:30
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2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」は、12兆円の新規ビジネスを生み出すと言われる。企業にSDGsの活用を促すビジネスセミナーが相次ぎ開催されるなど、民間企業の間でも注目が高まっている。

貧困や飢餓の撲滅など途上国を対象としていたSDGsの前身であるミレニアム開発目標(MDBs)との大きな違いは、先進国や民間を巻き込んだ点だ。その狙いは達成しつつある。17項目の目標は多様で、企業は優先課題を決めて取り組んでいる。共通するのは本業のノウハウを生かす形での貢献だ。

洗剤や食品など家庭用品の世界的企業、英蘭ユニリーバは「健康」に注力。鉄や自動車を手掛けるインドの財閥タタ・グループはエネルギーや経済成長に、米マイクロソフトはデジタル技術を使った教育環境の改善など、対象分野は多岐にわたる。

また、世界有数の民間銀行である英HSBCは、インフラ、エネルギー、教育などへのファイナンスを目的に10億ドル(約1120億円)のSDGs債を発行した。

SDGsが掲げる目標は誰もが否定できない普遍的なものだ。生物多様性や人権などで企業が問題を起こし、ブランドが傷つくのを避けるためのチェックリストとしても活用される。二酸化炭素(CO2)の削減事業をバランス良く評価するため、SDGsの考え方を援用するクレジット制度もある。

SDGsは世界の社会的課題の縮図といえ、「分析すれば潜在ニーズが見える」との期待もある。19年の20カ国・地域(G20)首脳会合は日本が議長国だ。SDGsは重要な議題とみられ、さらに盛り上がりそうだ。

ただ、SDGsで全ての課題を解決できるわけではなく、過大評価は禁物だ。専門家は、経営へのSDGsの影響が十分とはいえない現状を指摘する。

経営では企業価値が向上するか否かが重要な判断材料となる。株価は企業価値を示す指標の一つであり、将来の収益も含めて評価されているはずだが、足元の収益予想の影響度が大きい。長期的・世界的な課題であるSDGsに取り組んでも株価には反映されにくい。またSDGs債も売れ行きがよかったものの、金利などの条件に差がつくほどではない。企業努力には限界があり、金融市場も変わる必要がある。

しかし、金融市場も同様の問題を抱える。例えば、CO2削減に取り組んでもCO2規制などの政策がなければ利益や損失として企業収益には反映されない。そのため、課題に取り組む企業を金融市場が高く評価しようとしても限度がある。

新たに規制を導入するには時間を要するうえ、利害関係者の反発も少なくない。金融市場や企業の自主的な取り組みに対する期待は大きいが、結局は政策に戻ることになる。

近年、SDGsやTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言など、企業に自主的な行動変化を求める動きが増えている。これは短期的な利益を追いがちな現在の経済システムへの警鐘なのかもしれない。

国際的な提言や目標に呼応して企業や金融市場が課題に取り組み、政策も後押しする動きになれば好循環といえる。SDGsが「脱・短期志向」へのゲームチェンジのきっかけになれば本当の意味での成功と言える。

[日経産業新聞2018年7月20日付]

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