CO2排出量取引、復活の兆し クレジットへの需要 カギ
Earth新潮流 (本郷尚氏)

2018/6/25 6:30
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二酸化炭素(CO2)の排出量取引に復活の兆しがでてきた。欧州連合(EU)の排出量取引制度では、排出枠価格が1年前の5ユーロ(約640円)前後から16ユーロ以上へと急速に回復。韓国排出量取引制度でも21ドル(約2200円)相当以上と、取引が開始された2015年の2倍の価格となった。

さらに米カリフォルニア州取引制度での入札価格も14ドル台になるなど、各地の排出量取引制度で価格が上昇基調にある。

10年ほど前には気候変動対策の切り札として注目された排出量取引だが、EUと並び取引をけん引してきた京都議定書のCDM(クリーン開発メカニズム)の排出枠もほとんど価格がつかなくなるなど長く低迷期が続いていた。

排出量取引を巡る第一の環境変化は、地球温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」だ。協定では各国が削減目標を提示したが、他国での削減量も活用して目標達成を図るのではないかと見込まれる国もある。国際排出量取引のルールを18年中に決める計画で、政府間交渉が行われている。2国が協力して独自の仕組みを作ることも可能となるが、日本のJCM(2国間取引制度)が先行。韓国なども日本に倣い、独自の制度を検討している。

第二に、排出量を20年にピークにすると宣言した国際航空部門のオフセット制度も大きな影響を与えている。国際民間航空機関(ICAO)が様々な排出量取引制度のクレジットを活用し、削減計画を上回る排出量をオフセット(相殺)する制度を21年に開始する。需要は確実とみて排出量取引市場関係者の関心は高い。

第三の変化は企業の自主的な取り組みだ。気候変動問題に積極的な金融機関などは「エネルギー業界や、エネルギーを多く消費する業界は脱化石燃料を進め、実質ゼロ排出(ネットゼロエミッション)を目指すべきだ」などと主張。しかし、航空機の液体燃料や鉄鋼生産の石炭コークスのように非化石燃料で代替するのが難しい分野もある。

そこで、CO2排出の少ない天然ガスを増やし、再生可能エネルギーなどゼロ排出エネルギーに投資、取り扱うエネルギーの平均CO2排出量(排出係数)を引き下げ、燃料供給を継続する戦略を打ち出す企業もいる。世界的な石油・ガス企業、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルなどはこうした考えだ。

とはいえ、ゼロ排出エネルギーを急激に増やすのも難しいため、オフセットクレジット取得を通じた再生エネや森林保全への投資も選択肢となる。

さらに、新たな手法も登場した。自動車の販売台数の一定割合を電気自動車(EV)などゼロエミッション車にするカリフォルニア州のZEV制度は、ゼロエミッション車枠の取引が行われている。総量規制と取引の組み合わせは排出量取引そのものだとも言える。

排出量取引に否定的な意見も少なくない日本でも変化の兆しがある。国内の削減事業から創出されるJクレジットには2~3年前にはほとんど需要がなかった。しかし、最近では電力のグリーン化のために1700円以上で取引されているし、5月に始まった再エネなどゼロエミ電力の環境価値だけを取り出した非化石価値取引制度ではクレジットに換算すれば1トン当たり650円ほどの値がついた。

こうしてみると排出量取引復活のカギを握るのはクレジットへの需要のようだ。エネルギーや食料、工業製品などの国際分業は効率的だから普及した。排出量取引は政策や企業戦略の自由度を高める効果がある。CO2削減で「分業と貿易」という選択肢があっても不思議ではない。

[日経産業新聞2018年6月22日付]

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