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上司から離れ 始まる共創

SmartTimes (吉井信隆氏)

前回、大手企業とスタートアップの共創を成功させる条件の一つとして「互いのオフィスから離れた場所でプロジェクトを行うこと」と書いた。イノベーションの大きな要素なので、詳しく紹介をしたい。

1979年リクルート(現リクルートホールディングス)入社。首都圏営業部長など経て95年にインキュベーション事業のインターウォーズを設立、社長に就く。日本ニュービジネス協議会連合会副会長。

20世紀初頭にオーストリアで活躍した、経済学者であり銀行頭取を務めたヨーゼフ・シュンペーターは、著書『経済発展の理論』の中で「経済成長を起動するのは異分野の起業家による新結合だ」と提唱した。これがイノベーションの語源だといわれており、今日の共創を支えている。

共創は、人と人が共鳴し合うことから始まる。そのためには、素直な対話を交わす「場」が必要だ。当社では「出島インキュベーション」という名称で質の高い「場」を提供している。起業家やイントレプレナー(社内起業家)を当社の中に受け入れる内容で、長崎の出島から命名した。

社内にスペースを作ると、電話、ネットなど必要な設備がすべて整った、ただの「環境」となる。上司が近くにいると、イントレプレナーは進捗をよく聞かれ、企画がまとまっていなくてもそれなりのことを言わなければならない。そうすると上司は善意の介入をしてくる。「君、それはリスクが高い。もうからないよ。こうなのでは」。上司の思考に応えることに労力を使い、一番重要な顧客やマーケットへの意識は遠のいていく。

こうした「環境」をインキュベーションの「場」とするには、イントレプレナーが上司や経営陣から物理的に離れた所に身を置くことだ。人は「場」の影響を受け思考や行動が変わる。同僚や上司と議論していても、新鮮な情報は入ってこない。生きた情報は、外部の異質な人や起業家と対等に対話し、共鳴することによって得ることができる。共創は、そこから始まる。

当社の出島インキュベーションスペースには、大手企業のイントレプレナーとスタートアップの起業家の席があり、スペースの中心に大きな丸いテーブルを「ちゃぶ台」代わりに置いてある。昭和の初め、ちゃぶ台は家族や近所の人々と日常を語り合う場の中心にあった。区切りのない曖昧な空間、オープンな語り合いという「ちゃぶ台コミュニケーション」を再現したことで、出島は生きた情報が飛び交う「場」になっている。

さらに、年に数回、出島に集うメンバーと、酒を飲みながら情報交流会を行っている。ネットでの情報交換や検索は便利だが、フェース・トゥ・フェースで話すことでお互いの理解が深まり、共感が生まれる。人の輪が広がると、目的に応じてどの人や企業がキーとなるのかが見えてくる。「どこの誰と組んだらうまくいく」という決まった道筋などない。人と人が出会い、進化しながら共創チームが生まれ、イノベーションが起こるのだ。

[日経産業新聞2018年6月20日付]

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