破壊的革新で生じる犠牲
新風シリコンバレー (西城洋志氏)

2018/6/22 6:30
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シリコンバレーは破壊的イノベーションが生まれる場所の地位を確立している。昨今、「シリコンバレーの終わり」を示唆するデータや臆測が飛び交っているが、家賃の上昇、就労ビザの取得厳格化、人件費の高騰、完全なオーバーバリュエーション(投資の過大評価)などの逆風がこれだけ吹き荒れているのにその地位を維持しているのはこのエコシステム(生態系)が持つ底力、厚みだろう。

ヤマハ発動機で表面実装技術やロボット事業のソフトウエア開発などに従事。2015年7月にヤマハ・モーター・ベンチャーズ・アンド・ラボラトリー・シリコンバレーを設立、ベンチャー投資を含めた新事業開発に取り組む。

ヤマハ発動機で表面実装技術やロボット事業のソフトウエア開発などに従事。2015年7月にヤマハ・モーター・ベンチャーズ・アンド・ラボラトリー・シリコンバレーを設立、ベンチャー投資を含めた新事業開発に取り組む。

破壊的イノベーションは世の中の常識を覆す本質的な課題の解決を狙ったものが多く、そのため破壊される産業や不利益を被る企業・人が出る。それらの犠牲よりも大きな社会的大義や価値を生むことが前提なので、「犠牲は必要なもの」とみなされている。

ウーバーテクノロジーズの例はよく知られる。しばしばタクシー業界との対立構図で説明されるが、本質的にはその価値は深く、「運転する車と時間があってお金を必要としている人」と「効率よく移動したくてお金を持っている人」のマッチングサービスだ。その結果、快適でオンデマンドで安価な移動手段の提供を実現したし、そのプラットフォームを活用して多くのアプリケーションが生まれている。そのために払った犠牲は多くなく、タクシー会社の収入減(実は思ったより減っておらず、潜在需要の喚起の効果が大きいのだが)くらいだろう。

個人的には事業の継続性には悲観的だが、新しい価値の創出という点では素晴らしい。他の多くの業態でも「ウーバー・フォー・XXX」というものが生まれており、彼らが創りだした事業スタイルはまさに破壊的イノベーションだろう。

昨今、イノベーションのターゲットは自動運転車やロボティクスといったハードウエア絡み、かつ物理的世界にシフトしつつある。覚悟しなければならない犠牲の大きさは従来のソフトウエア、IT(情報技術)中心のイノベーションのそれとは比較にならない。

ウーバーのアプリのバグ(欠陥)は乗客が5分余計に待つことになったり、ドライバーが効率よく乗客を探せないといった不便を生んでも人を傷つけたり、物を壊したりはしない。しかし自動運転車やロボットではバグや不具合が人を傷つけ、物を破壊することがある。我々に本当にその覚悟があるのか。再度問い直す必要があるのではないか。

自転車のシェアリングでは壊れた大量の自転車が街中に散在し、エコが叫ばれる近年において「大量消費経済」のようになっている。電動キックスクーターのシェアリングではヘルメットの無着用や路面に対する安全設計が不十分なことなどによる事故が多発している。

イノベーションに犠牲が必要か、という問いに答えるのは難しい。おそらく「イエス」だろう。だが少なくともどのような犠牲なのか、それは不可避なものなのか、回避・最小化する努力をやり切ったか、その犠牲に見合うだけの社会的大義はあるのか、などを考え抜く必要がある。さもなくばただの「破壊」になる。

[日経産業新聞2018年6月19日付]

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