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骨太の名が泣く甘い経済財政改革

米ボストン大学のローレンス・コトリコフ教授は、財政悪化のツケを子や孫の世代に押しつけるさまを「財政的幼児虐待」と呼ぶ。国内総生産(GDP)の2倍に近い1100兆円もの長期債務を抱える日本はその見本だ。

戦後で2番目に長い景気回復局面が続いているとはいえ、日本の潜在成長率は高く見積もっても1%程度にとどまる。米国や欧州は金融政策の正常化を急いでいるのに、日本は異例の緩和策からいまだ抜け出せずにいる。

増税対策の自制が必要

このままで本当に大丈夫なのか。15日の閣議で決定した経済財政運営の基本方針(骨太の方針)からは、安倍晋三政権の強い危機感が伝わってこない。

財政再建と成長強化の両立を目指すという骨太方針の方向は正しい。2つの目標を達成しなければ、日本経済を真の意味で再生することはできない。問題はその手段が物足りない点である。

第1に財政健全化への踏み込みが甘い。国と地方の基礎的財政収支を黒字化する時期は2020年度から25年度に修正され、21年度に3つの指標で進捗状況を中間検証することになった。

これは実質で2%、名目で3%以上の高い成長率を前提とした楽観的な目標である。景気の回復による自然増収に頼りすぎていると言わざるを得ない。

消費税率を19年10月に8%から10%に引き上げる方針を明記したのは評価できる。基礎的財政収支を確実に改善するために、この増税は避けて通れない。

消費税率の引き上げには、駆け込み需要と反動減がついて回る。その平準化に向けて必要な措置を講じ、増税の軟着陸を目指すのが悪いとは言わない。

だが増税のたびに大盤振る舞いを繰り返すのでは、財政再建が進まない。住宅や自動車の購入支援をはじめ、19~20年度に実施する景気対策は、2兆~3兆円に膨らむとの見方も出ている。無駄な支出は厳に慎むべきだ。

第2に社会保障改革の意思が乏しい。19~21年度を社会保障の「基盤強化期間」と位置づけたが、年金や医療、介護の支出を抑える数値の目安を設けなかった。

16~18年度は社会保障費の伸びを抑える具体的な目安を掲げていただけに、その数値を示さなかったのは後退と言われても仕方ない。歳出の抑制に本腰を入れようとしない安倍首相だけでなく、不祥事が響いてもの申すのをためらった財務省にも責任がある。

高齢化で膨らむ給付を圧縮し、すべての世代で負担を分かち合うのが、社会保障改革の要諦だ。医療機関の外来受診に定額負担を導入し、3割の自己負担を求める高齢者の対象を拡大する方針を盛り込んだのは当然だろう。

しかし総じて切り込みが足りないのは明らかだ。年金支給開始年齢を65歳から70歳に引き上げるといった抜本策から、目をそらすべきではない。

第3に成長戦略が迫力を欠く。新たな在留資格の創設を通じた外国人労働者の受け入れ枠拡大のように、日本経済の底上げに資するものも少なくはない。だが民間の活力を引き出す環境づくりに集中しているとは言えない。

展望を開く鍵は規制改革だ。今回の規制改革実施計画は、国家戦略特区を巡る政治混乱が響き、ぱっとしない内容となった。

規制改革で成長強化を

保育や介護に残る社会規制の改革と、官製市場の民間開放が決定的に足りない。大阪府は保育士以外の人材活用など配置の柔軟化を国家戦略特区として提案した。

介護も同じ問題を抱える。専門性が必要な業務にこそ有資格者を集中させ、シーツ交換や高齢者送迎などを切り分けるべきだ。

意味のある規制改革を全国で実行できれば、人手不足を和らげ、多彩な働き方を促し、有資格者の負担を軽くして離職を防ぐことができる。財政支出を増やして教育や保育の無償化を進めるばかりが、成長戦略ではあるまい。

骨太方針と同時に閣議決定した未来投資戦略には、見るべき点がある。スマートフォンだけで行政手続きを終えられるようなデジタル政府の実現を盛り、人口減が激しい過疎地で金融や交通サービスが競争力を保つための方針を18年度中に示すと明記した。

安倍首相は第2次政権の発足後に打ち出したアベノミクスで「民間投資を喚起する成長戦略」を第3の矢に掲げた。その原点に立ち返って日本経済を活性化し、財政出動や金融緩和への過度の依存から脱却する必要がある。

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