2018年8月17日(金)

米朝が真に新たな歴史を刻むには

2018/6/13 1:10
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 敵対してきた米国と北朝鮮の首脳が固い握手を交わし、共同声明に署名した。それだけでも歴史的な出来事だろうが、北朝鮮の完全な非核化を実現し、朝鮮半島の緊張緩和と北東アジアの平和をもたらすには、遠く険しい道のりが控える。真に新たな歴史を刻んだとみなすのはまだ早い。

 米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩委員長が曲折の末、シンガポールで会談した。米朝のトップ会談は史上初めてだ。両首脳が核問題を対話によって解決する意思を示したことは歓迎したい。

北の完全な核放棄促せ

 両首脳は会談後、共同声明に署名した。声明はトランプ大統領が北朝鮮の安全保障面での体制保証を確約する一方、金委員長が「朝鮮半島の完全な非核化」に取り組む断固として不動の意思を再確認したと明記した。

 さらに米朝は、平和と繁栄を求める両国民の願いに沿って「新たな関係樹立に取り組む」と指摘。朝鮮半島で永続し安定した平和体制を構築すべく共同で努力するなどとした。米朝の新たな関係構築は「朝鮮半島や世界の平和と繁栄に寄与する」と強調している。

 共同声明について、トランプ大統領は「重要で包括的な文書だ」とし、「新しい歴史をこれからつくっていく」と語った。金委員長は「過去を払拭して新たな出発となる歴史的文書だ」と評した。

 会談後の記者会見でもトランプ氏は「完全な非核化には時間がかかるが、いったんプロセスが始まれば終わったも同様だ」と表明。将来の自らの平壌訪問に意欲を示すとともに「金委員長を適切な時にホワイトハウスに招待したい」と述べた。共同声明はあくまでも北朝鮮の核放棄実現に向けた第一歩という位置づけなのだろう。

 とはいえ、北朝鮮が共同声明で約束した「朝鮮半島の完全な非核化」は4月末の南北首脳会談時の板門店宣言の文言を再確認しただけだ。トランプ氏は会談で非核化の検証方法も議論し、「金委員長は帰国後、直ちに非核化のプロセスに取り組む」としているが、核放棄への具体的な工程表などは一切示されていない。

 確かに北朝鮮は米朝首脳会談に先立って、豊渓里(プンゲリ)の核実験場を海外メディアに公開して爆破した。引き続き弾道ミサイルエンジンの試験場閉鎖などに取り組むと約束したという。

 ただし、北朝鮮はあくまでも段階的な非核化措置に応じて、制裁緩和などを得る構えだ。米側はすでに体制保証で譲歩を余儀なくされた。今秋の米中間選挙を控え、目先の成果を焦るトランプ政権の前のめりな姿勢を、北朝鮮が巧みに利用したといえなくもない。

 忘れてならないのは、北朝鮮が過去に何度も約束を破ってきたことだ。1994年の米朝枠組み合意では核開発の凍結、2005年には6カ国協議の共同声明で核放棄まで約束したものの、経済支援などを獲得する一方で、いずれも核合意はほごにしてきた。

 北朝鮮は今回も米国の軍事的圧力の緩和や経済支援の獲得、新たな核開発の時間稼ぎなどを狙っている可能性は否定できない。

 米国がかねて主張するように、今度こそ完全かつ検証可能で不可逆的な非核化につなげねばならない。トランプ氏は早くも米韓合同軍事演習の中止まで示唆したが、北朝鮮の真意を探りつつ、慎重に米朝協議を進める必要がある。

拉致解決は日朝首脳で

 歴史的な米朝首脳会談の開催を受け、もともと北朝鮮に融和的な中国やロシア、韓国が実質的な経済制裁緩和に動く恐れがある。国際社会は完全な核放棄を北朝鮮に促すべく、今後も結束して強い制裁圧力を堅持すべきだろう。

 トランプ氏は安倍晋三首相の要請で、会談では日本人拉致被害者の問題も提起したと表明した。ただし拉致問題は最終的には、当事者である日朝の首脳が直接会って解決していくしかない。

 首相は先のワシントンでの日米首脳会談時に、日朝首脳会談への意欲を示した。もちろん、全被害者の早期帰国を促すべくあらゆる努力を傾けるべきだが、北朝鮮は原則として「拉致問題は解決済み」との立場を崩していない。日本側が闇雲に対話を求めても足元をみられるだけだ。

 米朝間の交渉が進めばいずれ、北朝鮮への経済支援が焦点に浮上する。日朝間には「過去の清算」の問題も横たわっており、経済支援は日本の数少ないカードだ。政府は拉致、核、ミサイルの包括的な解決をめざす立場を堅持しつつ、早晩めぐってくる機会を逃さずに最大限生かすべきだ。

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