2018年11月14日(水)

春秋

2018/6/10 1:12
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何らかの刺激で皮膚に炎症が起きることを「かぶれる」という。「気触れる」と漢字では書くようだ。思想や文学に感化される意味もある。「恥の多い生涯を送って来ました」「白状し給(たま)え。え? 誰の真似(まね)なの?」。若き日に太宰治の一節にかぶれた方もおられよう。

▼70年前の6月13日は、その太宰が知人女性と東京の玉川上水に身を投げた日だ。遺体の発見は、くしくも誕生日の19日で「桜桃忌」と名付けられファンが墓に詣でる。「人間失格」など青春のナイーブな心を射る作品を次々と発表、戦前から戦後の混乱期を駆けた。わずか38歳の生涯だが、日本文学史上に深い刻印を残す。

▼そして、太宰と同じ年に生まれたのが松本清張である。「砂の器」など社会派の推理小説にとどまらず、古代や近現代史をめぐっても縦横の活躍をした。よく知られるように文壇へのデビューは40歳を過ぎてから。学歴もなく職を転々とする若き日々を自伝に「私に面白い青春があるわけではなかった」と書き残している。

▼地主の六男坊に、粒々辛苦の努力家。異質な2人が今も読み継がれる理由は何だろう。作品を通じ、作家が体現した人生のリアルな典型に触れられることがあるだろう。ページを繰ってディープな追体験をし、免疫を得て成長するわけだ。スマホへのタップで色々片付く現在、かぶれ体験が廃れはしまいか少し心配である。

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