仏の探査船「タラ号」 芸術とも連携 理解広げる
Earth新潮流

2018/6/4 6:30
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5月21日、フランス国旗を掲げた小型帆船が日本を後にした。日本を含む15カ国以上の研究者らがサンゴの観測などを実施した科学探査船「タラ号」だ。大学や国の研究機関の探査船とは異なり、民間の資金で自由な活動を展開する。

筑波大(右は永田恭介学長)はタラ財団と研究協力協定を結んだ(5月)

筑波大(右は永田恭介学長)はタラ財団と研究協力協定を結んだ(5月)

タラ号は約15年前に活動を始め、計11回、約40万キロメートルを航海した。成果は英国の「ネイチャー」や米国の「サイエンス」などの科学誌に発表してきた。船を所有し維持管理費などを出すのは仏のファッションブランド「アニエス・べー」が設立した「タラ財団」だ。仏政府もイベント開催などで側面支援する。

研究者らは自国の研究費で進める観測計画などの一部を、この船で実施する。研究者同士のツテで加わった人や大学との研究協力の一環で参加した人など様々で、行く先々で乗船メンバーは入れ替わる。異文化・分野の融合を重視する。

寄港地では地域の人々向けに科学講演会や、海の生き物の写真展などを開催。知識の普及と環境問題を考えるきっかけづくりに力を入れてきた。

今回の航海では、フランスを2016年5月に出発し太平洋を横断して17年2月に日本に到着。その後、赤道を挟んでオーストラリアやニュージーランド付近を航海後、今年5月に日本近海に戻って最後の観測をした。

日本を出港する前の5月15日に都内で開いた公開シンポジウムで、観測の概要や結果を紹介した。温暖化によるサンゴの白化や生息域の北上、南の海における藻類の繁殖などを示す新たなデータを得たという。

面白かったのは、サンゴの専門家だけでなく科学コミュニケーションを教える筑波大学のマット・ウッド助教、写真家の高砂淳二氏らが登壇した点だ。

サンゴ礁には多くの魚が集まり、すみかとしたり食べ物を探したりして多様性の維持に重要な役割を果たす。貴重な観光資源でもあるが、多くの人にとっては白化も「遠い南の海の出来事」で、多様性の喪失と言われてもピンとこない。

科学解説をしたシルバン・アゴスティーニ筑波大助教が「私がいろいろ説明するよりも高砂さんなど芸術家の写真や映像を見た方が早い」と話すと、参加者の多くがうなずいた。コミュニケーションの道具として芸術を大切にしていくという。

タラ号は昨年と今年の2回、日本に立ち寄った(17年3月、都内の竹芝埠頭)

タラ号は昨年と今年の2回、日本に立ち寄った(17年3月、都内の竹芝埠頭)

タラ号が調べるのはサンゴだけではない。「環境意識の高い日本人がなぜこんなことを続けているのか」。タラ財団のロマン・トゥルブレ事務局長は、日本で食料品などのラップによる過剰包装やレジ袋の多用を見て驚いた。「スーパーのレジ袋は全廃され有料でも配らなくなったフランスとあまりに違う」

レジ袋やペットボトルは海で細かく砕かれ、微小な「マイクロプラスチック」となる。海洋生物に害を及ぼし、食物連鎖を通じて魚介類に取り込まれる。国際的には気候変動に次ぐ重要な環境問題として注目されるが、日本国内の関心はいまひとつだ。タラ号はマイクロプラスチック汚染の実態調査にも力を入れる。

20~21年には極寒の北極海を航海し、温暖化による氷の融解や気候への影響を調べる構想も温めている。「クレージーと思われるようなことでもどんどんやっていく」(トゥルブレ氏)。

日本との連携も強化したい考えで、筑波大学と研究協力協定を結んだ。タラ財団は日本拠点を設け、日本企業にも協力を呼びかける。

民間主導ながら産官学が緩やかに連携し、研究内容やメンバーの束縛が少ないこうしたプロジェクトは日本では聞かない。しかし、想定通りにいかないことも多い地球規模の課題を研究する方式としては参考になる。参加を通して連携を深める意味はありそうだ。

(編集委員 安藤淳)

[日経産業新聞2018年6月1日付]

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