2018年6月24日(日)

適正な運用で信頼される司法取引に

2018/5/19 1:08
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 共犯者らの犯罪の捜査に協力した容疑者や被告への見返りに、検察官が本人の犯した罪について起訴を見送ったり求刑を軽くしたりする。そんな司法取引の制度が6月から導入される。

 これまで捜査の現場では、取り調べで容疑者から自白を引き出すことが最優先とされてきた。司法取引の導入は日本の刑事司法の大きな転換点といえる。

 制度をうまく活用できれば、供述や証拠が得にくいため立件できなかった贈収賄や経済事件、暴力団犯罪などで首謀者をあぶり出す効果などを期待できる。

 一方で、自分の罪を軽くしたい容疑者がウソの取引を持ちかけ無関係の人を巻き込む恐れもある。取引には容疑者の弁護人が立ち会い、虚偽の供述には5年以下の懲役を科す、といった対策もとられるが、懸念は残る。

 制度がなかった過去にも、ニセの供述やあやふやな証拠で無実の人が逮捕される、といった問題は繰り返されてきた。

 検察は制度に潜む危うさを常に念頭に置き、事実の見極めや裏付け捜査を徹底するなど適正な運用に万全を期す必要がある。

 粉飾決算や背任、脱税といった企業犯罪では、会社首脳らの関与を裏付けることが難しい。実行行為を担った社員だけが裁かれ、トカゲのしっぽ切りで終わることも少なくない。

 米国ではこうした企業犯罪で司法取引が広く使われている。2000年代はじめに経営破綻したエンロンの不正経理事件などで司法当局は、個々の社員らと司法取引を重ね、最終的に経営トップらを訴追した。

 法に触れるような行為がなければもちろん問題はないわけだが、企業も新しい制度の導入をきっかけに企業倫理の徹底や法令違反のチェック体制を見直してみることが、必要なのではないか。

 新制度が「あなたは話したから勘弁する。あなたは否認したから厳罰だ」というようなただの取引となってしまっては、国民の理解は得られまい。事件の陰には大きな悪が潜んでいるのに切り込む手段がない。そんなときにこその司法取引であろう。

 取引の経緯は裁判の過程でも検証されることになる。検察はいままで以上に社会の常識や時代の要請に沿った法の執行を心がけるべきだ。あまり意を用いてこなかった説明責任も問われるだろう。

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