2018年5月22日(火)

心臓病のiPS細胞治療は安全第一で

社説
2018/5/18付
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 厚生労働省の専門部会はiPS細胞で心臓病を治す世界初の臨床研究計画を、大筋で了承した。大阪大学が今年度中の治療をめざす。重症患者を再生医療で救う高度な試みだ。慎重かつ安全に進め、結果は広く共有してほしい。

 心臓病は日本人の死因の第2位を占める。ひどくなると心臓移植が必要だが提供臓器が足りず、日本の平均待機期間は約3年に及ぶ。再生医療を使えば症状の悪化を食い止め、生活の質(QOL)を改善できる可能性がある。

 計画では京都大学が備蓄する他人のiPS細胞から心筋細胞のシートを作り、重症心不全患者の心臓の弱った部分に貼る。iPS細胞を使う再生医療としては、理化学研究所などによる目の難病治療に続く2件目となる。

 ただ、開腹手術を伴う心臓の治療は命にかかわり難易度が高い。しかも、理研の目の臨床研究の数百倍以上にあたる1億個もの細胞を入れる。問題が起きても目の場合ほど容易には除去できない。

 厚労省部会の審査は動物実験の結果などを踏まえ、今年4、5月の2回だけで了承に至った。「もう少し活発な議論があってもよかった」との声もある。

 計画を主導する大阪大の澤芳樹教授らは、重症心不全の患者本人の太ももの筋肉からとった細胞をシート状に育て、心筋に貼る治療も実施してきた。シートは再生医療製品として「条件付き期限付き承認」を得ており、既に五十数例で使われている。

 今回の計画はこの成果の延長線上にあるが、他人のiPS細胞を使う利点がいまひとつわかりにくい。研究者には当たり前と思えることでも繰り返し丁寧に説明し、理解を広げることが必要だ。

 iPS細胞は京都大学の山中伸弥教授が初めて発表してから10年ちょっとの若い技術で、未知の点も多い。臨床研究中に症状の悪化など、期待にそぐわない結果が出るかもしれない。

 その場合は原因を突き止め、今後の研究にしっかりと生かすべきだ。患者の個人情報に配慮しながらも、透明性を高めることが研究の進展や国民の信頼につながる。

 iPS細胞研究には国が10年間に約1100億円を投じ、産業化への期待が大きいが、成果を急ぎすぎるきらいもある。大切なのは患者を第一に考え、再生医療をしっかりと根付かせるための知見を冷静に積み上げることだ。

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