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森の学園都市、三方よし

SmartTimes (石黒不二代氏)

カンボジア政府から山手線内の1.5倍の土地を50年間借款し、都市開発をしている日本人男性がいる。元IT(情報技術)ベンチャーの創業者であり、企業売却後、自己資金のみでこの開発をスタートした。

1994年にスタンフォード大学経営大学院を修了、シリコンバレーでコンサルティング会社を起業。2000年から現職。

首都プノンペンから車で約2時間のその土地は、ただの森林だった。カンボジア人を雇い、ブルドーザーで道がない森の中に道路を造った。全地球測位システム(GPS)の情報を得るアンテナを作り、遭難しそうになりながら測量をして地図を作ったのは本人だ。電気も水道もなかった土地に浄化施設を造り、発電機を造り、下水処理施設を造り、宿泊施設を造った。

彼は、そこに、IT大学を作ろうと思い立った。カンボジアはポルポト政権の人権抑圧という不幸な歴史を持つ国だ。国を支えてきた知識人の多くが殺害されたため、教育の担い手の確保に苦労している。

彼は、国から大学設置の認可を得た。ITや英語教育ができる先生を海外から呼び寄せた。受験は、英語と数学と知能指数(IQ)テストに絞り、上位4%のみが合格対象と厳しい。貧しい家庭の子供も教育を受けることができるように、学費も寮も無償にした。

その代わり、学生たちは企業が発注するプロジェクトに参加しお金を稼ぐこと、学外のハッカソンなどのコンテストに入賞すること、学内の開発プロジェクトに参画すること、などで大学への寄与を約束する。学生たちはカンパニーと呼ぶチームを組成し、ウェブサイト、仮想現実(VR)システム、無線インターネット通信の仕組みの開発などに主体的に関わり、生きた知識を身につけていく。

発注側の企業にとってもメリットは大きい。学生に奨学金を提供した企業は、学生を卒業後、優先的に採用することができる。

この都市開発を外から見ていると、大きなアービトラージの仕組みを見ている気がする。ファイナンス用語で裁定取引のこと。理論値より低いものを買って、高く売れればリスクなしでもうかる仕組みだ。

日本企業は、この大学にプロジェクトを発注する。単価はカンボジア平均より高いが、日本で行うよりはるかに安くできる。学生の卒業後の採用でも、日本人を採用するよりはるかに安い。一方、学生たちにとっては学費は無償だが、理論値の才能を安く大学に提供する形になる。将来、日本企業で働くことができれば、カンボジア平均の10倍は稼ぐことができる。国をまたいだ学生と大学と企業の三方が潤うアービトラージのエコシステムが出来上がっている。

雇用が300人に達した開発地には子供を持つ労働者も多い。日本の学校経営者の支援を受け、大学付属の小学校もできるそうだ。広大な土地のため、小学校は10以上必要で、それらを無線で結び、遠隔地教育が始まるという。

[日経産業新聞2018年5月9日付]

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