2018年11月14日(水)

改憲の実現にはまず環境整備を

2018/5/2 23:01
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きょうは憲法記念日である。改憲、護憲両勢力はそれぞれ集会を開き、気勢をあげる予定だ。そのことに意味がないとは言わない。だが、非難の応酬合戦がよりよい日本につながるとも思えない。同じ目線で話し合う土俵をつくれないものだろうか。

憲法論議はこの1年、かつてなく盛り上がった。安倍晋三首相が昨年の憲法記念日に「2020年を新憲法で迎える」と提唱したのがきっかけだ。「一石を投じるため」と本人が言った通り、波紋は大きく広がった。

世論の支持率は低下

それで議論は深まったのか。むしろ逆だ。論点は拡散し、迷路に入り込んだ感すらある。

自民党は野党時代の2012年に改憲草案をまとめ、党議決定した。戦力不保持を定めた9条2項を削除し、国防軍を持つと明記した。諸外国と同じく軍隊を持つ国になるということだ。是非はさておき、わかりやすかった。

安倍首相の新提案は全くの別ものだ。2項は残しつつ、自衛隊の存在を書き足す。歴代内閣が継承してきた「自衛隊は戦力でなく、専守防衛のための必要最小限の実力組織なので合憲」との憲法解釈も維持するという。

さらに言えば、自衛隊明記案が国民投票で仮に否決されても、自衛隊が合憲であるとの立場に変わりはないそうだ。

可決でも否決でも合憲ならば、わざわざ国民投票を実施する必要があるのだろうか。

自民党憲法改正推進本部の細田博之本部長は「現状では2項を残すのが、国民の理解を得られるぎりぎりの線だ」と説明する。党内には2項削除を将来の課題とする2段階論もある。

本音は2項削除がしたいのならば、粘り強くそう訴えればよい。憲法改正を急ぐいまの安倍政権を見ていると、憲法に不具合があるというよりは、安倍首相の政治的遺産づくりに軸足があるのかと勘繰りたくなる。

しかも、2項削除を譲歩したにもかかわらず、新提案は国民に歓迎されたとは言いがたい。日本経済新聞社とテレビ東京の世論調査によれば、憲法改正について「現状のままでよい」は1年前の46%から48%へ増え、「改正すべきだ」は45%から41%へ減った。

改憲反対には森友・加計学園問題などへの批判も含まれているとはいえ、現状で国民投票を実施すれば賛否拮抗は必至だ。欧州連合(EU)離脱を決めた英国の国民投票のときのような、国論二分の混乱に陥るだろう。

改憲勢力は思うに任せぬ展開にいらだちを募らせているようだ。おととい憲政記念館であった改憲派の国会議員の集まり「新しい憲法を制定する推進大会」はこんな決議を採択した。

「新憲法制定の機運は安倍内閣の登場によって大きく進められたが、いまや正念場である」

改憲に必ずしも積極的でない公明党の斉藤鉄夫幹事長代行が登壇し、「幅広い合意なしに国民投票を行うと、取り返しのつかない失敗をしかねない」と発言すると、「(検討が)遅いんだよ」との罵声が飛んだ。

与党内の足並みさえそろわないようでは、国民投票どころか、国会での改憲の発議でさえ高いハードルである。

課題が多い国民投票法

他方、立憲民主党など護憲野党の姿勢も感心しない。「安倍政権のもとでの改憲論議に応じない」との声をよく聞くが、9月の自民党総裁選で新首相が誕生したらどうするのか。改憲に本当に反対ならば、手続き論ではなく、政策論で勝負すべきだ。

国会における憲法論議は、2000年に設けられた憲法調査会、07年にできた憲法審査会を通じて少しずつ進んできた。与野党双方の憲法族と呼ばれる議員同士の相互信頼があったからだ。

安倍政権はこうしたパイプを壊してしまった。本当に改憲を望むならば、新提案にこだわらず、与野党の声に幅広く耳を傾ける姿勢を示すべきだ。いま求められるのは地道な環境整備である。

憲法審査会を再起動するよい方法がひとつある。国民投票の仕組みの再検討である。期日前投票がしにくい、未成年の運動制限がない、などさまざまな課題が指摘されている。手直しなしに国民投票が実施されれば、投票率が伸びないなど投票の正当性に疑問符が付くことだろう。

実務的な修正作業を通じて、与野党間の信頼を徐々に醸成していく。改憲項目の本格的な検討はそれからでも遅くない。

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