仕事は「自分ごと化」が必須
Smart Times (栄藤稔氏)

2018/5/7 6:30
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スタートアップにも種類があり、情報通信技術を背景に起業された会社が技術系スタートアップだ。この種の会社に対して、多くの伝統的な既存産業に勤める中高年層は、どのような印象をお持ちだろうか。

1985年松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所、NTTドコモのシリコンバレー拠点長や執行役員を経て2017年7月から大阪大学教授。みらい翻訳の社長を兼務。

1985年松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所、NTTドコモのシリコンバレー拠点長や執行役員を経て2017年7月から大阪大学教授。みらい翻訳の社長を兼務。

ジーンズをはき、会社のロゴをプリントしたTシャツを着た、ちょっと軽薄な若者か、若者気取りの中年が、展示イベントでデモをしている。ビジネスモデルの設計は後回しで夢を語り、イベントの打ち上げでは味の薄いビールを片手に「イノベーション」という言葉を連発しはしゃいでいる――。

こんな印象を持つ方もいるかもしれないが、実態は違う。スタートアップは、航海に例えると新天地を求めて荒れた海にこぎ出した小船だ。乗組員に向く人と向かない人を見分ける方法を、同僚が教えてくれた。以下の状況に対して、肯定的なのか、否定的なのかを聞いてみるとよいと。

(1)営業がとってくる顧客の要求はいつも急で、逐次検討する必要はない。

(2)営業と技術とマーケティング、それぞれ役割を決め、うまく回すべきだ。

(3)上司の命令が理不尽なときは、適当にやる。

(4)開発技術者が顧客サポートをしているような会社は成長しない。

(5)会社は目先の数字を追うだけでなく、将来への投資を考えるべきだ。

あなたは、いくつ肯定できただろうか。私は一つだった。同僚に言わせれば、二つ以上肯定する人は技術系スタートアップには向かず、大会社に向いていると言う。技術系スタートアップでは、なぜこれらに否定的でなければならないのか。理由は以下の通りだ。

(1)商機は突然やってくる。要求を二週間前から予告する優しい客などいない。要求は大事なマーケティング情報だ。

(2)誰のせいにもできない世界にいるという覚悟を持て。自分で全部やれ。

(3)経営幹部がいちいち説明している時間がない時がある。まず動け。

(4)顧客と会え。地べたをはって顧客の面倒を見るのは当然だ。

(5)今日がなければ明日はない。将来への投資機会は自分で考えろ。

まとめると、地べたをはう仕事を自分の問題として一人称で主体的に捉える人、「自分ごと化」できる人とでも言おうか、そういう気質が身についていないと、スタートアップには向かないということになる。

もちろん、自分ごと化は大会社でも必要だが、要求される範囲の大きさに違いがある。大企業では「どういう行動が是なのか、否なのか」という行動規範が時間をかけて社員で広く共有されている。一方、スタートアップは歴史が短く、会社を回す仕組みもない。

ひとりひとりが、あらゆる仕事を自分ごと化する。これこそが、荒波の小舟の乗組員にとっての必須の行動規範なのだ。

[日経産業新聞2018年5月4日付]

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