破綻回避へ痛み分かち合おう
今から12年後、2030年は日本にとってどんな年か。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口は次のような姿を描き出す。
総人口は1億1913万人。15年より800万人少ない。高齢化の本質は75歳以上の後期高齢者の激増である。約700万人増えて2288万人になる。全都道府県で人口減を記録するのも30年だ。超高齢国家の出現である。
技術革新を推し進めよ
人口構造の変化は経済成長、国の財政・社会保障制度をはじめ、地方自治体運営、道路・橋や上下水道などの維持補修問題を含め、広範に影響がおよぶ。自治体の消滅が現実になれば、選挙制度の再構築も課題になろう。
財政・社会保障についてはっきりしているのは、すべての世代が歳出改革と税負担増という痛みを分かち合わなければ、制度が破綻するという冷厳な事実だ。座して待つわけにはいかない。
喫緊の課題は公的な医療・介護費の膨張を緩やかにする改革だ。今世紀に入り医療・介護費は経済成長を上回るペースで増大した。30年に向け、それは加速しよう。
経済成長を納税者の負担力と言い換えれば、制度の持続性に赤信号がともったのは明らかだ。
まず皆保険を維持するのが前提になる。米国のように無保険者が相当数を占める事態は避けたい。カギを握るのは民間保険だ。公的な健康保険は医療の基礎をくまなく支え、民間保険が補完する役割分担が皆保険維持を可能にする。
健康保険が利かない先進医療をカバーする民間保険は増えつつある。他方、医療分野の技術革新は驚くほど速い。革新的だがコストが高い医療技術や新薬の普及を加速させるためにも、保険会社はもっと知恵を絞ってほしい。
介護分野もAI(人工知能)やロボット技術の普及を促すうえで民間保険の役割は大きい。それは介護人材不足の緩和にも役立つ。海外人材の受け入れを増やし、望む人に家族介護への現金給付を取り入れるのを急いでほしい。
国家的課題には認知症対策がある。現在500万人の患者数は30年に830万人に増えるおそれがある。海外の政府や研究機関との連携を密にし、予防や治療の研究に国を挙げて取り組むべきだ。
保険財政対策として不可欠なのは、個々人の経済力に応じた負担の徹底だ。医療費の窓口負担の基準を年齢から所得・資産など資力に改める必要がある。マイナンバーはそのために導入したはずだ。
後期高齢者の増大は、からだにさまざまな不調を抱えた人の増加を意味する。ひとつの診療科にとどまらず、幅広く病気の治療をこなす家庭医の養成が急務だ。
主に現役層の患者に対して病気を「とことん」治す重要性は不変だろう。他方、後期高齢者などは「まあまあ」治れば良しとするよう医療のあり方を見直す発想があってよい。人生の後半、病とのうまいつきあい方を考えたい。
社会保障のもうひとつの課題は年金だ。急ぎ手を着けるべきは、支給開始年齢を65歳より遅らせる改革である。欧米主要国はひと足早く67~68歳への引き上げを決めた。より長命な日本人は70歳開始に向け真摯に取り組むべきだ。
10%後の見取り図示せ
それとセットで欠かせないのが労働市場の改革だ。雇用の流動性を高め、高齢期にも柔軟な働き方を選べる仕組みが年金改革を助ける。意欲ある高齢者が働き続け、社会保障財源の出し手にとどまれば支給開始年齢も上げやすい。
厚生労働省は19年に年金の財政検証をする。その際、成長率などの長期想定に現実離れした高い値を置けば改革は遠のく。これは若者層への背信といっていい。堅く見積もるのが常識である。
また高齢期の基礎的な生計費を支える基礎年金は、その機能を強化すべきだろう。消費税財源を効率的に使うよう求めたい。
財政と社会保障の制度破綻を防ぐ羅針盤となるのは、財源確保の中長期の見取り図である。
一例を挙げれば、後期高齢者の医療費を現役世代の健康保険料から召し上げるやり方が限界に来ている。約50万の加入者を抱える派遣業界の健保組合が解散を決めたのは、その場しのぎを続けた政府への抗議の意も込められている。
安易な財源調達への依存は制度のひずみを大きくするだけだ。政権は消費税率を19年10月に10%に上げた後の行程表づくりに着手するときであろう。
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