春秋

2018/4/19 1:13
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小津安二郎監督は、恐らく最も愛していたであろう女優、原節子にこんなセリフを与えている。「品性の悪い人はごめんだわ。品行はなおせても、品性はなおらないもの」。1961年公開の映画「小早川家の秋」。縁談に心揺れる司葉子演じる義妹に助言する場面だ。

▼近しい人にも小津は同様の発言をしていたというから、信条だったのだろう。悲しみのなかでも「私たちはまだ恵まれているほうだよ」と伏し目がちに、含羞の色を浮かべて語る市井の男女を好んで描いた。今も作品が世界の人々に愛されるのはなぜだろう。節度を保って生きる作中人物の品性に対する共感かもしれない。

▼麻生太郎財務相はきのう、女性記者に対するセクハラ疑惑が浮上した福田淳一事務次官の辞任を発表した。福田氏は、週刊誌が報じた内容を全面否定。麻生氏は、被害者が名乗り出なければ疑惑の事実確認は難しいとの認識を示していた。これに対し、野田聖子総務相は女性に対する二次被害の恐れを指摘し批判していた。

▼英国の批評家、トーマス・カーライルは「羞恥心は、あらゆる徳の源泉である」との言葉を残している。恥を忘れて組織防衛を優先した財務省の醜態に、多くの国民があきれかえった。福田氏は、世間を騒がせたことを辞任の理由にあげ、事実関係については言葉を濁した。この国の行政の品性が問われた辞任劇であった。

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