「機敏さ」人事管理にも
新風シリコンバレー (ロッシェル・カップ氏)
市場や顧客ニーズの変化が早い現代では、迅速なイノベーションが全ての企業にとって戦略的な課題となっている。多くの企業が模範とするのは、シリコンバレーのハイテク企業だ。

シリコンバレーの企業の素早さの秘訣の一つは、アジャイルと呼ばれる方法にある。辞書では「身軽で機敏な」という意味を持つ。ソフトウエア開発の分野で、作成プロセスの効率を上げ、顧客ニーズにより上手に応える方法として、2001年に誕生した。
従来のやり方は事前計画中心で、早く変化する状況にはあまり適していなかった。一方、アジャイルは、プロジェクトの詳細の全てを事前に細かく計画するのではなく、開発者が顧客と密接に連携し、情報を手早くフィードバックしながら、短いサイクルで改善を行うという特徴がある。
効率および効果は、従来方法に比べはるかに優れているため、欧米の企業では全面的に導入されてきた。ソフト開発だけでなく、製造からマーケティングまで、それ以外の部門でもアジャイルの方法が導入されるようになってきている。ある経営コンサルティング会社の調査によると、「アジャイルな企業」は、そうではない企業に比べて組織の健康度が高いそうだ。
そして、アジャイル導入の動きは、最も縁遠そうな人事部門にも及び始めた。伝統的に人事管理は素早さより、安定したプロセスに重点を置いてきた。だからこそ役所的で、ルールや書類中心と思われてきたが、欧米の成功企業では人事管理は戦略的な機能として捉えられるようになってきており、価値創造が期待されているところでもある。
従来の人事管理は任務遂行を重視しがちだが、アジャイルな人事管理は専門知識の育成、コラボレーションと迅速な意思決定に重点を置いている。マネジャーは、コーチングに優れているサーバントリーダーとして位置づけられる。
そのほか、(1)従業員に絶えず学びの場を提供する(2)従業員は絶え間なくフィードバックを受ける(3)成功指数は従業員の満足度と定着率、イノベーションを生み出しているかで決まる――などがアジャイルな人事管理の特徴だ。
ケーススタディーとして注目されているのは、オランダの金融機関、INGだ。15年に組織をフレキシブルな小規模チーム構成に切り替えた。そして、従業員が現在配置されている職務に本当にあっているかどうかを確認するため、本社の約3500人にインタビューを行った。
結果として、40%が別の職務に異動、あるいは会社を離れた。組織が必要とするマインドセットを持っていたかどうかが面接では重視され、そうではない人はトレーニングを受ける、もしくは解雇されることになった。
今までの日本企業の人事管理では、従業員を交換可能な部品として扱ってきた。しかし、知的労働が中心の現在の企業にとって、このアプローチは適さない。アジャイルな人事管理で各従業員の能力を最大限に引き出し、成功できる組織に変えることが重要だ。
[日経産業新聞2018年4月17日付]