「脱個人」で始める社会貢献
SmartTimes (田中勇一氏)

2018/4/18 6:30
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「転職でも独立でもない新しい働き方。会社に勤めながらにして社会貢献事業も営む。名付けてハイブリッドサラリーマン」。大手広告会社に勤務する田村勇気さんはこう語る。

1992年住友銀行(現三井住友銀行)入社。新銀行東京とイオン銀行設立に参画後、キャリア支援のリソウルを設立。2010年に社会起業大学を設立。公益資本主義推進協議会副会長。

1992年住友銀行(現三井住友銀行)入社。新銀行東京とイオン銀行設立に参画後、キャリア支援のリソウルを設立。2010年に社会起業大学を設立。公益資本主義推進協議会副会長。

「エンターテインメントの仕事は天職」と自任する田村さんは「阪急電車 片道15分の奇跡」ほか、映画やテレビのプロデューサーとして輝かしいキャリアを歩んでいるようにみえる。

しかし、田村さんはジレンマも感じていたという。社会問題の解決につながるような事業を提案しても「時間がかかる」「市場が小さい」「組織で対応できない」といった理由で実現できなかったからだ。会社でできないのなら、別の形態で実現しようと思い立つ。

着目していたのはストリートアート。世界中を旅した田村さんは、ストリートアートが子どもたちの身近な芸術として日常に根づいている国がたくさんあることを知っていた。

創意工夫を凝らして巨大な壁に描かれた作品には、ワクワクと感動、そして、細部まで手を抜かないつくり手のこだわりがある。日本でも、完成度の高いストリートアートが広がれば日々の生活が豊かになるし、アーティストを目指す人たちに活躍の場を与えることにもなる。東京五輪・パラリンピックを見に来る外国人が日本に好印象を持ってもらうことにもつながる。

現実は厳しかった。この世界は、知れば知るほどリスクが高いことがわかってくる。アーティストへの報酬の源泉となる事業収入を確保するのが難しいのだ。

あきらめかけていた頃、田村さんはストリートアート事業を個人ではなく、NPO法人で展開するプランを思いつく。仕事で培ってきた人脈をいかせるし、中央官庁や地方自治体などの公的機関も巻き込むことができる。資金はクラウドファンディングで調達する。

このプランは、ソーシャルビジネスの普及を目的に社会起業大学が主催する「ソーシャルビジネスグランプリ2017」でグランプリを受賞した。田村さんは勤務先の許可もとり、2017年7月にNPO法人の「365ブンノイチ」(東京・目黒)を設立した。

すると東京都渋谷区役所から提案があり、渋谷駅近くの宮下公園の壁全面にアートを描くことになった。同じ志を持つメンバーとアーティスト、ボランティアの美大生やクラウドファンディングによる支援者らの力を合わせ、巨大なストリートアートが完成した。

社会全体の利益を重視する「公益資本主義」の立場で考えれば、本業を通して社会に貢献するのが企業の本来のあり方だ。パナソニック創業者の故松下幸之助氏は「企業は本業を通じて社会貢献をする。利益は社会に貢献したことの証である」と話していた。田村さんのような人だけでなく、そうした企業も増えていくことを期待したい。

[日経産業新聞2018年4月16日付]

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