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エンジェル投資家の功罪

新風シリコンバレー (ジョアナ・ドレイク氏)

シリコンバレーには、成功した起業家たちが後進の起業家に資金を投じたり、経営のアドバイスをしたりする伝統がある。こうした人たちは「エンジェル投資家」と呼ばれている。

起業の魅力が全米に広がった1990年代半ば、エンジェル投資に関心を持つ人たちも増えていった。地域・職場や同窓生のつながりなどに基づいたエンジェル投資家のグループが結成されたのもこのころだ。

今はインターネットを通じて小口の資金を集める「クラウドファンディング」により、エンジェル投資はより身近になっている。これは「エンジェル投資の民主化」とも言える現象だ。

だが、私たちは、起業家にエンジェル投資家からの出資を制限するようにアドバイスしている。これには主に2つの理由がある。

1つは、優秀な起業家であれば、強力な実績と実行可能な事業アイデアを持っていれば、すぐにプロの投資家(機関投資家)から資金を調達できるからだ。経験豊富で信頼できる機関投資家から適切な規模の資金を得ることで、起業家たちは事業を首尾よく軌道に乗せられるだろう。

資金よりも大事な理由がある。機関投資家は経営やガバナンスに関する貴重な助言を与えてくれる。もし想定より多くの資金が必要になったときには、彼らは追加の資金供給に協力してくれるだろう。

一方、エンジェル投資家は起業家にとって頭痛の種になることが多い。彼らの多くは初期段階で、しかも少額の投資しかできない。追加の資金供給に協力してくれる可能性は低い。

しかも、起業家は、株主である彼らとのコミュニケーションを取り続けなければならない。起業の経験を持たない多くのエンジェル投資家は、起業の難しさを知らない。会社の浮き沈みに対し、一喜一憂する。

私たちは、エンジェル投資家として活動するのであれば、25~30のスタートアップに対し、それぞれ5万~10万ドルの小切手を切れるだけの資金力が必要だと判断している。エンジェル投資家からの投資数とスタートアップの成功は反比例しているというのが、私たちの経験から言えることだ。

役に立つ可能性のあるエンジェル投資家もいる。1つは起業のエコシステム(生態系)において「ブランドネーム」を持つプロの投資家や起業家たちだ。彼らとつながりを持つことで会社の価値が証明され、人材や別のプロの投資家を引きつける魅力になる。

もう1つは、企業が参入しようとしている市場に関する専門知識やコネを持つ投資家だ。法人向け音楽配信のフィードに出資しているミカ・サルミ氏は、起業家であり、多くのメディアブランドを統括するバイアコムの経営幹部だった。私たちがフィードへの投資を決めるとき、サルミ氏の存在は大きな意味があった。

一般の人たちはエンジェル投資の民主化には注意しなければならない。スタートアップへの投資の約70%は利益をもたらさないからだ。そして、その損失は「民主的」に共有負担することになる可能性が高い。

[日経産業新聞2018年4月3日付]

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