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「王」刺激したネットフリックス じわり包囲網

先読みウェブワールド (藤村厚夫氏)

映画ファンなら気づいていることだが、劇場公開されない「ハリウッド映画」作品が次々に誕生している。けん引するのは、映像ストリーミング(ビデオ・オンデマンド)勢力だ。ここ数年、カンヌ映画祭やアカデミー賞の審査を悩ませているのが、劇場映画の最高峰といえる賞にエントリーしてくるネットフリックス、アマゾンなどのオリジナル作品群だ。

今年3月のアカデミー賞では、ネットフリックス制作のドキュメンタリー「イカロス」が賞を受賞。昨年のカンヌ映画祭では、同じくネットフリックスの2つの作品がエントリーした。

今年からは長期の劇場公開を義務づける制限が課されるなど、ストリーミング勢力の浸透に対する審査側の抵抗感をにじませる。映画のほか、すでにアメリカの良質なテレビ番組を決めるエミー賞では、ネットフリックス、Hulu、アマゾンなどが制作した作品が目白押しの状態だ。

映像ストリーミングのなかではもちろん、ネットフリックスが台風の目だ。世界約200カ国に1億2000万人近い契約者を有している。1作当たり、ハリウッド大作並みの1億ドルを超える制作費をかけるケースもあるというのだから、放送局や映画産業は気が気ではない。

ネットフリックスだけで、今年、作品の制作と調達に70億ドルかけるとしているが、その多くがこの放送局や映画産業からのライセンスに充てられる。放送局や映画産業にとり、ストリーミング勢力が脅威でもある一方、まとまった収入源として顧客でもあるわけだ。

前稿「音楽ストリーミング『スポティファイ』に刺客次々」では、音楽分野でナンバーワンのスポティファイを取り巻くライバルの動きを扱った。映像ストリーミングのネットフリックスではどうだろうか。

実は、こちらも来年にかけて大きな構図の変化がありそうだ。ひとつは、スポティファイと同様、グーグル(ユーチューブ)やアマゾンなど、IT勢力が王者の座を奪うべく動いている。特にアマゾンは、ストリーミングを視聴できる「プライム」会員を、米国内だけでも約9000万人(昨秋)を抱える。規模ならネットフリックス契約者を上回る。

もうひとつ、そしてネットフリックスにとり本当の脅威は、既成放送勢力だろう。上記したように、作品のライセンスだけでいえば、既成勢力にとりストリミーング勢力は、顧客だが、その新興勢力が良質なオリジナル作品づくりに乗り出すなら、話は別だ。

ふじむら・あつお 法政大経卒。アスキー系雑誌の編集長、外資系IT(情報技術)企業のマーケティング責任者を経て2000年にネットベンチャーを創業、その後の合併でアイティメディア会長。13年からスマートニュース執行役員。東京都出身。

昨年12月に象徴的な事件が起きた。「メディア王」ルパート・マードック氏率いる21世紀フォックスが、映画・テレビ事業を約500億ドルでウォルト・ディズニーへ売却すると決めたのだ。同氏は、この売買劇が、ネットフリックス対抗策であることを公言してはばからない。「ディズニーとフォックスが一切をネットフリックスに売らなくなったら、どんな効果が生じるか興味深いだろう」と語る。

事実、ディズニーは自らのストリーミング事業を今年中にも開始すると同時に、ネットフリックスらへのライセンスを停止すると宣言した。あからさまな「ネットフリックス包囲網」のスタートである。

従来のケーブルTVだけでは契約者を維持できない状況に陥っている作品供給側は、自らストリーミングに進出するタイミングを見計らったともいえる。スポティファイ同様に破竹の勢いでユーザーを伸ばしてきたストリーミングの覇者が、正念場を迎える。

[日経MJ2018年4月2日付]

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