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問題残したままの自民の自衛隊明記案

戦後政治の最大のテーマである憲法9条をめぐる意見の対立は、自民党の中でさえ、やはり簡単にケリがつくものではなかった。

党の憲法改正推進本部は、9条1項・2項はそのままに9条の2に追加して自衛隊の存在を書き込む案で細田博之本部長への一任を取りつけたものの、25日の党大会を前に、反対論を押しきるかたちの見切り発車だった。

憲法への自衛隊明記は昨年5月、安倍晋三首相が提案したものである。自衛隊違憲論を封じ込めるのがねらいだ。現行憲法はそのままに新しい条文を書き加える加憲論の公明党に配慮、実現可能性を優先した案でもある。

こうした現実主義的で政治的な改憲論に、法律的な筋論から異論を唱えたのが石破茂氏らである。

9条2項の「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を削除しなければ戦力とは何か、否認した交戦権の意味は何かといった議論が続き、自衛隊の存在を含め、どこまでいっても9条問題は決着しないという考え方だ。

2012年の野党当時の自民党の改憲案がそうだったが、これからもこの議論を引きずるのは避けられない。9条2項のくびきは残ったままだ。

次の問題は、自衛隊の活動や自衛権の範囲はどこまでかという解釈論である。

議論の最終段階で実力組織としての自衛隊の範囲について「必要最小限度」としていたくだりを不明確だとの反対論を受けて削除した。自衛権に言及すべきだという意見も踏まえ「必要な自衛の措置」という表現に変更した。

しかしこれは同じことである。その範囲がはっきりせず、集団的自衛権の行使の問題などこの議論が続くのも避けられない。自衛の範囲をめぐる解釈論のくびきからも逃れられない。

もうひとつ指摘しておかなければならないのは、首相が自衛隊明記でも解釈は変える必要がなく、国民投票で否決されても自衛隊合憲に変わりはないと説明している点だ。これでは何のための自衛隊明記なのか訳が分からない。

ただ首相の問題提起は9条について考えるうえで意味があったのはたしかだ。この先は単に9条の条文の字句にとどまらず、日本の安全保障のあり方を含め、自衛隊の運用の枠組みを定める安全保障基本法の新設もセットで論議を進めていくべきではないだろうか。

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