春秋

2018/3/23 1:18
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司馬遼太郎は、「街道をゆく」のオホーツク編で北海道常呂(ところ)町(現・北見市)についてこう述べている。「流氷期には海獣がとれるし(略)常呂川には、季節になると、サケやマスがのぼってくる。採集のくらしの時代、常呂は世界一のいい場所だったのではないか。」

▼作家が当地を旅したのは1991年から92年にかけて。サロマ湖畔を走る旧国鉄・湧網線の常呂駅は、既に廃止されていた。「町といっても市街地はなさそうである」と素っ気ない。その後、札幌市への一極集中が加速。今は北見と起点の新旭川、終点の網走を結ぶJR北海道の赤字路線、石北線の存続が危ぶまれている。

▼おととい、平昌五輪女子カーリングで銅メダルに輝いた「LS北見」の5選手が、同市の中心商店街に凱旋した。その映像を眺めていたら札幌勤務時代に訪ねた常呂の景色がよみがえった。町おこしのシンボルであるカーリング競技場の近くに、赤ちゃんからお年寄りまで数千の住民の手形を刻んだ陶板の柱が並んでいた。

▼進学、就職などで古里を離れても、いつか家族や恋人を連れてここに帰る。大海に泳ぎ出たサケが戻る懐かしい川のような存在かもしれない。パレードを祝福するため帰省した常呂の人が、うれしそうに取材に応じていた。あの手形の柱にも立ち寄っただろうか。北辺の町は早春の日、「世界一いい場所」になったはずだ。

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