米高級スーパー、アマゾン傘下入りの光と影
先読みウェブワールド (瀧口範子氏)

2018/3/22 6:30
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昨年に米アマゾン・ドット・コムが米国の高級スーパー、ホールフーズ・マーケットを買収して以降、このスーパーでは次々と変化が起こっている。それに対する私の感想は「愛憎半ば」といったところだ。

ホールフーズの店内にはアマゾンのキオスクも設置

ホールフーズの店内にはアマゾンのキオスクも設置

最初に起こったのは値下げだ。昨夏の買収成立の翌日から、一部の果物や野菜の値段がグンと下がった。買い物に行くと、アマゾン・マークがついた垂れ幕のようなものが下がり、値下げをアピールしている。「さすがアマゾンの価格破壊」と、ひとりの消費者として歓迎した。

ところが、しばらくすると目に見えてオーガニックものが少なくなっていったのである。ホールフーズはそもそもオーガニック食品を売るチェーンだ。生鮮食品はもとより、小麦粉、豆類、スナックや、洗剤、化粧品にいたるまで、オーガニックにこだわりを持つ企業やブランドの商品が買える場所だったはずだ。値段は少々高いが安心な食品が買える店と思っていたのに、その信頼感がどんどん下がっている。

果物や野菜は買収前はほとんどがオーガニックだったが、現在は半減した感覚だ。「Conventional(一般品)」と書かれた、つまりオーガニックでないリンゴ、オレンジ、キャベツ、アスパラガスが並ぶ。健康には問題ないはずと思っても、従来のホールフーズを台無しにされてしまったのを痛感する。

アマゾンは価格を下げるために、オーガニック度も下げているのか。そんなちょっとした不満を抱えていると、今年に入ってアマゾンがそれを補うような戦略に出た。ひとつは有料会員サービス「アマゾン・プライム」のクレジットカードを利用した際の特典、もうひとつは、生鮮食品の2時間配送である。

アマゾンでの買い物が5%引きになるなどプライム会員への手厚いサービスを提供するカードの特典を、ホールフーズにも広げた。日常的なスーパーでの買い物が5%安くなるのは大きい。

私もすぐさまこのカードを使い始めた。5%引きで節約できた分は、アマゾンのアカウントにギフトカードとして溜まっていくのだが、最近はいつもそこに残金がある状態になっている。そして、アマゾンで買い物をすると、残金分がディスカウントされる。その買い物自体も5%引きなので、二度おいしい気分だ。一般品の野菜でも仕方がないかと、無理に納得しようとする自分がいる。

2時間配送にも驚いた。従来のアマゾンの2時間配送サービス「プライム・ナウ」に、ホールフーズのアイテムを加えたものだ。これまでも、アマゾンの生鮮食品配送サービス「アマゾン・フレッシュ」を利用していたが、こちらはアマゾンの倉庫ではなくホールフーズの店先からやってくる。実際に試すと、自分でいつも買っているのと同じ包装紙に包まれた鮮魚や野菜が届いた。

2時間配送では、35ドル以上の買い物をすれば配送料も無料だ。数日分をまとめ買いするので35ドルは軽く超えるし、何よりも自分で行けば、運転も含めて最低1時間半はかかる。時間を節約しつつ、思い立った時にすぐに配送してもらえるのはありがたい。配送者へのチップも、浮いたガソリン代だと思えばいい。

たきぐち・のりこ 上智大外国語(ドイツ語)卒。雑誌社、米スタンフォード大客員研究員を経てフリージャーナリストに。米シリコンバレー在住。大阪府出身。

たきぐち・のりこ 上智大外国語(ドイツ語)卒。雑誌社、米スタンフォード大客員研究員を経てフリージャーナリストに。米シリコンバレー在住。大阪府出身。

アマゾンのホールフーズ化も進んでいる。昨年末から、手の込んだアルチザン風かつ健康志向のナッツやハーブ・ティー商品を、アマゾンがプライベート・ブランド「ウィキッドリー・プライム」として出している。安物志向のアマゾンらしからぬラインアップだ。

最近のホールフーズの店内には、今やキンドルなどが買えるキオスクや、ネット通販の注文商品が受け取れるロッカーもある。そのうち商品の返却をここで受け付けるようになるとも聞いた。

アマゾンのスピードは速いとわかっていたが、日常生活と密着したホールフーズを巻き込んだ展開は、ひしひしと感じられる。生活がますますアマゾン一色になる危機感を、一方で感じている。

[日経MJ2018年3月19日付]

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