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正義の反対は悪じゃない

SmartTimes (石黒不二代氏)

「正義の反対は何だと思う?」。私は会社の全体会議の冒頭でみんなにこう問いかけた。「悪…でしょ?」誰もがこう答えた。私もそう思っていた。

ネットイヤーグループは多様な職種の人が集まって新サービスを生み出す会社だ。ビジョンにも「多様性から生まれるイノベーション」や「お互いの強みを愛する」という言葉が並ぶ。

しかし、これを実行に移すことは容易ではない。特にスタートアップ企業には主義主張が強い人が集まってくる。自分と異なる人の意見や心情に、時には強い対立が生まれる。

営業と技術者が相いれない、間接部門と直接部門はスタンスが違う、ある人はお金がモチベーション、ある人はお金に興味がない――。経営会議の場で取締役会で、対立や罵倒さえ生まれるのは当社に限ったことではないだろう。

そんなときに1つの映画に出合った。親しい友人となったニューヨーク在住の佐々木芽生さんが監督を務めた「おクジラさま」だ。

事の発端は2009年公開の米国のドキュメンタリー映画「ザ・コーヴ」。和歌山県太地町のイルカ追い込み漁を糾弾した映画で、翌年にアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受賞した。これにより、クジラの町として400年の歴史を持つ太地町は世界中から非難されるようになった。

佐々木監督はその理由を探すために太地に来たことで、もっと大きな問題にぶち当たった。私たちはなぜ対立し、憎み合うのかという問題だ。

イルカを解放するために抗議活動をする人、捕鯨活動阻止のために叫び続ける環境保護団体代表、事実だけを伝えようとする新聞記者、私たちの昔からの生業だと話す漁師たちの戸惑い――。佐々木監督は、この映画で賛否にとらわれない多種多様な意見を事実として映し出している。

私たちは正義の味方と悪の対立を見て育ってきた。ウルトラマンは悪い怪獣をやっつける。水戸黄門さまが成敗するのは悪代官だ。しかし、こんな完全な正義と悪の対立が現実の世の中にあるのだろうか? 

私は、佐々木監督のこの言葉が大好きだ。「正義の反対は悪ではない。『もう一つの正義』だ」

同質な労働者が企業の成長を支える時代はすでに終わった。性も年齢も人種さえも、多様性を求めなければ企業を支えることができなくなった。しかし、単に異なる人が同じ場所にいるだけでは不十分なのだ。

新しい成長を促すには、多様な人たちが語り合い、理解しあい、認め合うことが必要だ。誰もが自分の才能や自分の育ちを否定したくない。しかし、相手にも同じように異なる才能や育ち方があるはずだ。自分に正義があれば、多様性を持つ相手にも正義がある。それをお互いが認めたとき、初めて、ダイバーシティーが現実のものとなる。

[日経産業新聞2018年3月16日付]

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