イノベーションの5条件
SmartTimes (栄藤稔氏)

2018/3/16 6:30
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多くの企業がイノベーションを経営テーマに掲げている。経営陣は人工知能(AI)やクラウドといった言葉に焦りを感じ、他企業と組むことを標榜する。そして優秀な社員を集めて「オープンイノベーションを起こせ」と号令をかける。

1985年松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所、NTTドコモのシリコンバレー拠点長や執行役員を経て2017年7月から大阪大学教授。みらい翻訳の社長を兼務。

1985年松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所、NTTドコモのシリコンバレー拠点長や執行役員を経て2017年7月から大阪大学教授。みらい翻訳の社長を兼務。

「イノベーション難民」とも言うべき、こうした現象が顕著になっている。それは見識なしに新規事業探索部門をつくった結果、どうすべきかわからなくなっていることの表れだ。

東京大学の森川博之教授らと共同で毎年、数十人のICT(情報通信技術)企業の中堅技術者と起業家を集めて合宿をしている。3年前の合宿でイノベーション難民を救うべく、ソニー執行役員の島田啓一郎氏らと一緒にまとめた「大企業でやるイノベーションの条件」というものがある。

それは(1)資産の利用(2)最上位の企業理念に合致(3)本社・本業から隔離(4)トップの支援・権限委譲の明言(5)制度整備への対応――の5つだ。

(1)と(2)はわかりやすい。新規事業を起こすのに、その会社の経営理念やあらゆる経営資源を利用する。名刺を得意先に渡したとき、自社のことを説明しなくてよいことの有り難さを知ってほしい。そこに大企業の価値が凝縮されている。そうしないのであれば、独立して起業すればよい。

重要なのは(3)だ。経営者によっては「私の直下でやれば良いんだ」という人もいる。その人がリスクを負うスーパーな社長なら正しい。だが、大半の企業において失敗を前提として新しい事業ネタを探すには、既存事業とは異なる行動規範が必要だ。

新規事業は既存事業と競合することが多い。これまでの商流をこわしたり、他部門や取引先と重複した製品やサービスと見なされたりすると「調整」という作業に膨大なエネルギーが費やされる。リスクのない新規事業を探そうとする傾向も出やすくなる。それでは凡庸な計画となる。

次に大事なのが(4)だ。隔離した組織は自律的に運営することが重要だ。不確実さに対応するには、予算と権限が経営陣から委譲されていなければならない。

(5)は技術・市場の進化に法制度が追いついていない状況で環境を整備しろと言うことだ。遠隔医療やドローン、自動運転、仮想通貨などがその好例だ。

これらの5条件を満たす例はないか? 筆者もNTTドコモにおいて「39works」というプログラムをつくった。これに触れたいところだが、説得力を増すため、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が2017年10月に設立したジャパン・デジタル・デザイン(JDD)を紹介したい。

JDDの最高経営責任者(CEO)の上原高志氏は私にこう語った。(1)と(2)はMUFGの資産と信用を活用している。(3)と(4)では、幹部から「金融とICT(情報通信技術)の融合でホームランを打て。打数を増やせ」と言われている。

グループの幹部5人に3カ月に1回の割合で報告するが、口頭のみ。予算や人事、投資など、すべての自治権を確保しており、プロジェクトの可否や協業契約、人材採用もJDDのCEOがその場で決めている。(5)については、銀行法改正により可能になった銀行業の高度化に挑戦している。

本社・本業から隔離され成功まで失敗を繰り返すには勇気と熱意がいる。追加条件があるとすれば、それは現場の事業化への情熱だろう。その熱量が組織を回すエネルギーとなる。

[日経産業新聞2018年3月14日付を再構成]

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