2019年5月25日(土)

働き方の質の話をしよう
新風シリコンバレー (西城洋志氏)

2018/3/16 6:30
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「働き方」というものを議論する機会に恵まれた。

シリコンバレーでの働き方と日本での働き方の良しあしという軸での対比はあまり意味がない。多民族国家で日々イノベーションを起こそうとしているシリコンバレーと、同質性が高く「カイゼン」を行い続ける日本という具合に、根底にある文化や成り立ちが違い過ぎるからだ。

ヤマハ発動機で表面実装技術やロボット事業のソフトウエア開発などに従事。2015年7月にヤマハ・モーター・ベンチャーズ・アンド・ラボラトリー・シリコンバレーを設立、ベンチャー投資を含めた新事業開発に取り組む。

ヤマハ発動機で表面実装技術やロボット事業のソフトウエア開発などに従事。2015年7月にヤマハ・モーター・ベンチャーズ・アンド・ラボラトリー・シリコンバレーを設立、ベンチャー投資を含めた新事業開発に取り組む。

イノベーションでは、費やした時間と成果には強い相関がない。ある日、突然とてつもなく大きな成果をあげることもあれば、年単位で停滞する場合もある。だから、時間の密度を上げる働き方を是とするし、個々の能力の最大発揮が最重要項目であるというマネジメントになる。

一方、カイゼンを行い続けたり、ものづくり(生産)や日々のオペレーションをイメージしたりした場合、時間と成果(出来高)には強い相関がある。だから、従事する全員が同じ時間・場所にいるようになる。

そこでは、個ではなく、群をベースにした働き方を是とし、群の成果を最大化するマネジメントが優先される。それは、個を犠牲にしてでも群の利益を尊重する考え方にもつながる。

だから、日本で言われている「働き方改革」という言葉を聞くとよく分からなくなる。群をベースとするのではなく、個をベースとした働き方に変えようということなのか? これまで培ってきた日本の特長を捨てるということなのか?

シリコンバレーのベンチャー(スタートアップ)企業、特に「ディープテック」と呼ばれる最先端の技術に携わっていたり、ハードウエアに関係したりしているイノベーターたちは、自分たちの潜在能力を持続的かつ確実に世界に提供するためのパートナーとして日本をみつめている。

意思決定は遅いが、一度決めると少々傷ついてもあきらめないというマインド(これはスタートアップへの出資では最悪の結果を招く場合もある)。「ものづくり」へのこだわり。これらはシリコンバレーの目には魅力に映るのだ。

これまでの働き方は否定せず新たな働き方を模索するのであれば、筑波大学准教授の落合陽一さんの著書「日本再興戦略」に書かれていた「Work as Life」という考え方が素晴らしいと思う。日本人にとって、仕事はやりがいであり生きがいなのだから、「仕事の中にいながら生きる」という我々なりの人生観・仕事観に基づくべきだという趣旨だ。

人はモノを消費せず使用するようになっていく。だからこそ、モノの信頼性や安全性への要求は増す。ソフトウエアとの合わせ技でモノの価値が市場に出てから進化することも起きる。

そして、常に不可逆に消費し続けるのは時間であり、時間こそ人生における有限かつ最重要なリソースだ。その時間を「働く」ということにどう使うのかを考え、変えていくことを推進したいのであれば、労働時間という量の話ではなく、労働環境・自己実現の支援などの質の話をすべきだ。

[日経産業新聞2018年3月13日付]

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