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春秋

東京の隅田川に近い回向院は「日本一の無縁寺」を名乗る。明暦の大火で亡くなった多くの身寄りのない人々を供養したのが寺の始まりだからだ。その後、安政大地震など大きな災害が起こるたびに、時に数万人の死者を弔ってきた。関東大震災の犠牲者も眠っている。

▼大正の震災直後にここを訪れた田山花袋はルポ「東京震災記」でこう嘆いた。「どうしてこう人間は忘れっぽいのだろう? どうしてこう人間はじき大胆になるのだろう?」。過去の教訓を街づくりに生かさず、助かる命が災に消えた。今は「命が何より大事」と語る人も、いずれ日常に流されていく。そんな予見も残す。

▼東日本大震災からきょうで7年がたつ。東京でもビルが揺れ、帰宅困難者が列を作った。そんな自身の被災体験も、東北の被災者への共感につながっていたのかもしれない。あの日の記憶が薄れ、遠い地への想像力も鈍りがちだ。しかし津波などに襲われた被災地の生活は、7年の時を経た今も、震災以前の日常とは遠い。

▼広い道路が敷かれ、住宅地が整備される。だがかつてのにぎわいを取り戻すのは容易ではない。田山花袋は復興で威容を整える帝都の未来に思いをはせつつ、小さな家が肩を寄せあい、間を路地が結ぶ古い東京が永遠に失われたことへの哀愁も記す。姿を変えていく故郷を見つめる東北の人々の心を思うと、やはり切ない。

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