2018年12月16日(日)

風評・風化を乗り越え復興確かに

2018/3/10 20:34
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東日本大震災から7年になる。東京電力福島第1原子力発電所の事故が起きた福島県ではなおも5万人が避難を強いられ、故郷に戻った住民も農産物の販売不振など風評被害と闘っている。

岩手、宮城県などの津波被災地では住宅の再建がほぼ終わった。一方で、地域によって復旧の度合いに差が生じ、教訓の風化も目立ち始めている。これらの現実にしっかりと向き合い、確かな復興につなげたい。

戻れぬ人へ支援強めよ

「やっと帰れると思ったら、6年以上空けていた家は雨漏りで傷みがひどく、帰宅を諦めた人もいる」。福島第1原発の南約10キロにある富岡町で、語り部活動をしている仲山弘子さんは語る。

同町は昨年4月1日、一部を除いて避難指示が解除された。だが1万6千人の町民のうち戻ったのは400人ほど。役場や診療所などは再開したが、商店の大半はシャッターを閉ざしたままだ。

昨年春には富岡町のほか飯舘村、浪江町などでも避難指示が解かれた。しかし戻った住民は1割に届かず「将来帰りたい」と考える避難者も半数に満たない。

避難期間が長引いた地域ほど、復旧は困難さを増している。住宅や商店を集約したコンパクトシティーづくりを急ぎ、故郷に戻りたい人を後押しすべきだ。雇用を創り、元の住民以外の人たちを町に呼び込む発想も要るだろう。

帰還して仕事を再開した住民は風評被害に直面している。福島県産のモモや肉用牛などの出荷価格は震災前の水準にまだ戻らず、観光客の増加率も他県に比べて低い。除染で生じた汚染土が至る所に山積みになっている状況では、風評を拭うのは容易ではない。

環境省は汚染土を保管する中間貯蔵施設の用地取得を急ぎ、仮置き場を一日でも早く解消すべきだ。戻った住民の被曝(ひばく)線量を実測すると、事故直後の予測より低いこともわかってきた。なお残る帰還困難区域についても、縮小を検討すべきときだ。

帰還を諦めた人への支援も欠かせない。官民でつくる福島相双復興推進機構の調べでは、中小事業者の約2割は避難先で事業再開を目指している。同機構はこうした事業者を訪問し、資金調達などを助言している。復興庁はこうした支援をもっと強めるべきだ。

福島の復興を進めるうえで大前提になるのが、第1原発の廃炉を着実に進めることだ。

事故で溶け落ちた核燃料の取り出し準備はこれから本格化する。カメラ付きロボットが溶融燃料をとらえたが、ごく一部にすぎない。スケジュールありきではなく、安全第一に状況に応じて手順を見直す柔軟さが要る。

汚染水を浄化した水をためたタンクは630基を超え、このままでは設置場所が不足する。浄化水に含まれるのは放射能が低いトリチウムだけで、科学的には薄めて海に流せば問題ない。漁業者は風評被害を恐れているが、国と東電は消費者にも説明を尽くし、放出に理解を得るべきだ。

原子炉建屋に流れ込む地下水を遮る凍土壁も、効果が限定的とみられ、いつまで使い続けるか検討が要る。345億円もの建設費を投じた以上、簡単にはやめられないとの声もある。だが毎月十数億円の維持費をかけ続ける価値があるのか、経済性を考慮して冷静に判断してほしい。

復旧から復興へ道筋を

岩手、宮城県などの被災地では3万戸の災害公営住宅の建設や1万8千戸の高台での宅地整備が進み、住宅の復旧は完了に近づいている。医療や介護、移動手段などをしっかりと確保すると同時に、被災者以外にも居住を促し、街のにぎわいを取り戻したい。

新たな課題も浮上している。多くの地域で防災訓練や教訓を伝えるイベントに参加する住民が減り、次の災害に備える意識の低下が指摘されている。震災を機に新しいまちづくりをめざすとした復興の理念も、厳しい現実を前に色あせてきた。

政府は被災地を再生可能エネルギーや最先端のドローン、植物工場などの開発拠点とし、雇用を生み出す構想を掲げた。福島第1原発の周辺も廃炉技術の研究開発拠点にする計画だ。だが公的な機関を除くと進出企業がなかなか集まらず、正念場を迎えている。

被災地はもともと人口減少や高齢化が他の地域よりも早く進むとみられていた地域だ。震災を乗り越えて持続可能なコミュニティーをどう築くか。復旧が一段落した地域では、地元自治体が主体的に復興の将来像を考えるときだ。

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