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楽譜も電子化時代の予感 音楽家と技術者共鳴

先読みウェブワールド (野呂エイシロウ氏)

1年ほど前、レストランでばったり会った知り合いの経営者から「面白いものがある」とカウンターの一角でこっそり見せてもらったのが、大きなタブレットだ。オンにすると五線が浮かんだ。「電子楽譜」だという。経営者は「まだ試作品だけど」と笑顔を見せた。

電子楽譜が音楽家に広がりつつある

後にテラダ・ミュージック・スコア(TMS、東京・品川)を立ち上げる寺田倉庫オーナー、寺田保信氏である。

寺田氏はピアノを習い、時々自慢の弾き語りをアドリブで筆者にも披露してくれていた。彼の師であるピアニストの武村八重子氏から、海外に音楽のリサイタルに向かうたびに大量の楽譜を持っていく不便を聞いたという。さらに調べると、音楽に関わるプロ、アマ、学生など多くの人が紙の楽譜の管理や運搬に苦労していることがわかったそうだ。

そこで考えついたのが「電子化」だ。電子書籍のような電子楽譜――。ソニー出身の技術者で電子書籍に携わった経験のある野口不二夫氏(現TMS社長)の力を借りながら2年かけて開発し、折りたたみできる電子楽譜端末「GVIDO(グイド)」が昨年に誕生した。11世紀にイタリアで五線譜の礎となるものを考案したとされる、グイード・ダレッツォの名に由来する。

タブレットを2枚並べたような660グラムの重さの端末に、4000曲分の楽譜が入る。バッテリーは3日間も持つ。付属の専用ペンを使い、指揮者の指示やメモも自由に書くことができる。価格は18万円(税別)。プロにとっては決して高いものではないそうだ。

ページをめくる際は本体の3カ所のスイッチを押す方法と、別売りのフットスイッチで足でめくる方法がある。ピアノやトランペット、指揮者など両手を使う場合は、フットスイッチが便利だ。

さて気になる端末の滑り出しの反響は? 音楽関係者の評判は良いようだ。NHK紅白歌合戦も担当した指揮者の金子隆博氏やトロンボーン奏者の村田陽一氏などが使い始めたという。

楽譜はオンラインの「GVIDOスコアストア」で買える。そのストアでは、シンコーミュージック・エンタテイメント、音楽之友社など、国内7社、海外1社の楽譜を販売している。

アメリカのシンシナティ交響楽団のアソシエイトコンダクター(指揮者)である原田慶太楼氏は「音楽家が長年探していたもの」と評価する。譜面にペンで書いた情報は、他の演奏家にも簡単にシェアすることができる点がよいという。「最高級の電子ペーパー、そしてヒンジのない2画面の設計は使いやすい」と、機器としての使い勝手のよさも指摘する。

まさにプロの技術の結晶だろう。「世の中になかった商品やサービス。これだけ待ち望んでいた音楽家がいたことを本当に実感できた」。野口社長からは、ニーズに技術で応えた気概が伝わってくる。最初は寺田氏の夢を手伝うためだったのが、今はさらに多くの音楽家の夢を実現するためにこの仕事をしている充実感があるそうだ。

音楽好きの寺田氏が音楽家のニーズをくみ取り、野口氏という優秀な技術者とかたちにした。人の縁が音楽の風景を少し変えていく。

のろ・えいしろう 愛知工大工卒。学生時代から企業PRに携わり、出版社を経て日本テレビの「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」で放送作家デビュー。戦略PRコンサルタントとしても著作多数。愛知県出身。

「すでに世界中の音楽家からフィードバックをいただいている。ソフトウエアのアップデートや周辺アクセサリーの拡充など、機能を充実していきたい」。野口氏は商品とサービスのさらなる発展を見据えている。

電子書籍で読むのが自然になったように、楽譜の電子化が当たり前になれば、音楽家は楽曲制作や演奏などにもっと集中できるだろう。そうすれば音楽も進化する。そんな未来が楽しみだ。

かくいう筆者もピアノを弾く。今は「戦場のメリークリスマス」の楽譜しか持っていないが、10曲弾けるようになったら電子化にチャレンジしてみよう!

[日経MJ2018年3月12日付]

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