2018年7月22日(日)

DM×ネットのデータ活用 「顧客目線」で効果アップ
奔流eビジネス (アジャイルメディア・ネットワーク取締役 徳力基彦氏)

コラム(ビジネス)
2018/3/9付
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 今月2日、全日本DM大賞の授賞式が開かれた。企業が郵送しているダイレクトメールの中から優れた企画を表彰しているもので、今年で32回目を数える長寿企画だ。筆者は昨年に続き2度目の審査委員として参加したが、昨年からの進化を感じることができた。

「味一番」は名前を知らなかった常連客のデータ化にDMを生かした

「味一番」は名前を知らなかった常連客のデータ化にDMを生かした

 今年の受賞作品の印象を一言でまとめるとしたら「顧客目線でのデータ活用の進化」だ。

 象徴的だったのが、グランプリを受賞したソフトバンクのケータイアルバムだ。ソフトバンクを長期継続で利用している顧客に対し、その顧客が今まで使ってきたケータイ機種の歴史をアルバムのようにまとめ、顧客への感謝の気持ちを伝える企画になっていた。

 ソフトバンクが顧客の利用機種の歴史のデータを持っているからこそできる特殊な企画だが、一般的なデータ活用とは明らかに違う印象だ。

 従来の広告業界における「データ活用」という言葉は、顧客の性別や年齢、アクセス履歴や位置情報などのデータを想像させる。そして、それらを使い、ターゲットとする顧客に最適な広告を表示して商品を売り込もうとする行為を連想するケースが多いだろう。

 そこには効率性を重視した「企業目線のデータ活用」の姿勢が透けて見える。この姿勢が行き過ぎた結果、顧客がどこまでも追いかけてくるバナーや自分を狙い撃ちにしている広告に不安や不信を感じる。広告をブロックするためのアプリが重宝されるわけだ。

 一方、ソフトバンクのアプローチは顧客目線の色彩が出てくる。顧客データを活用することで顧客一人ひとりに異なるアルバムを作成し、自らの思い出を振り返ることができる点を打ち出した。

 当然ながらソフトバンクのアプローチも、最終的には最新機種への変更や顧客ロイヤルティーの向上、解約防止というマーケティング効果を期待した施策ではある。ただ顧客が受ける印象が大きく異なる点が面白い。

 同じようなデータ活用の取り組みはほかの受賞企業の多くから感じることができる。

 例えば釣りざおメーカー「がまかつ」は、高級な新製品の販売初速を高めるため、ロイヤル顧客に予告DMを送り、フェイスブックに誘引して一緒に発売前に盛り上げるという手法で銀賞とクロスメディア部門賞を受賞した。予告DMの送付先は会社側が保有する顧客データや営業員の顧客についての知識を総動員して検討したそうだ。

 誰が予告DMを受け取ったら喜んでくれるか、話題にしてくれるか。顧客目線で真剣に考えたからこそ、誰にDMが届いたかという話題もあいまって釣り愛好家の間で新製品の関心が盛り上がったのだ。

 さらに個人的に印象に残ったのは、同じく銀賞だった「味一番」という飲食店の事例だ。味一番は金沢にあるいわゆる大衆食堂。スタンプカードが付いたはがきDMを商圏に送付し、そのはがきに名前や住所を記入してもらう。それを小型スキャナーで読み込むことで、100人ほどの顧客のリスト化を実現した。

とくりき・もとひこ 名大法卒。NTTを経て06年アジャイルメディア・ネットワーク設立に参画、09年社長。14年3月から取締役最高マーケティング責任者(CMO)。

とくりき・もとひこ 名大法卒。NTTを経て06年アジャイルメディア・ネットワーク設立に参画、09年社長。14年3月から取締役最高マーケティング責任者(CMO)。

 これだけ聞くと、単なるリスト化の作業のように感じるかもしれない。ただ興味深いのは、従来は名前が分からなかった常連客の名前も把握でき、接客時に呼びかけやすくなったという点だ。

 名前を店舗に提供した顧客側も、データの提供のしがいがあったと感じたはずだし、実は大衆食堂のようなIT(情報技術)に縁遠い業態でも、低コストでデータを集め、活用できうる時代になったということがよく分かる事例だといえる。

 データ活用という言葉の響きからは、非人間的で冷たい印象を持つかもしれない。ところが顧客目線で活用すれば結果は全く異なってくる。より人間らしいコミュニケーションを実現できるかもしれないのだ。

 皆さんの会社にも、活用することで顧客が喜ぶデータが、実は眠っているのではないだろうか。

[日経MJ2018年3月9日付]

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