春秋

2018/3/5 1:12
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売れないとわかっていても、原発事故で一度は汚染された畑を耕し、ソバを育て風景を守る農家がある。取り壊しの近い仮設住宅で築いた人間関係を惜しむ高齢者がいる。東京・広尾の聖心女子大学で始まった写真家、豊田直巳さんの作品展は福島の今を静かに伝える。

▼戦場取材の長い経験を持ち、東日本大震災の後は東北に通い続ける。撮りためた作品の展示会が開かれるのは3年ぶりだという。震災後は毎年、どこかで作品展が開かれた。しかし最近は世間の関心が薄れ、展示会を主催しようとする人が減ったそうだ。情報が減り、人々の気持ちがさらに離れる。そうした悪循環がある。

▼福島県、宮城県、岩手県の被災地で、除染や宅地整備が進む。しかし街や集落が元通りになるわけではない。一つの土地で生きてきた人たち、一つ屋根の下で暮らした家族が戻る人と戻らない人に分かれる。危険を恐れる人と安全を信じる人が言い争う。震災からこれまでに「人々の分断も進んだ」と豊田さんは振り返る。

▼「ありがたいことに写真はしゃべらない」。言葉がないからこそ、雄弁な写真の数々。台湾での作品展の開催も決まったそうだ。次の日曜日で、あの3.11から丸7年がたつ。関連する報道や催しも増えることだろう。あの日の記憶を一人ひとりが思い起こし、被災者の痛みに改めて思いをはせる。そんな時間を持ちたい。

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